樹液を効率よく探すための時期

初夏以降樹液を探して昆虫採集をする機会が増えますよね。
誰もが大好きなクワガタの仲間は主に樹液に集まります。
樹液が出やすい時期やタイミングが分かれば、より効率的にクワガタたちに遭遇できそうだと、採集をするならば誰もが考えますよね。
今回はあくまで私の体感をベースに、こんな時に樹液がよく出ているというケースを紹介します。
樹液がなぜ出るかなどについては別記事がありますので、本記事では時期の要素のみ考察していきますが、最低限その要因については触れていきます。
樹液は出やすい時期がある
まず結論として程度の差はありますが、樹液自体は4月~12月頃まで出現しています。

ですが、季節ごとの流出量には大きな差が有ります。
樹液の流出について最も多い時期を示すと、梅雨中~梅雨明け直後のタイミングです。
月でいえば6月中旬から梅雨明けは年に寄るので7月上中旬程度が最も出るタイミングと言えます。

そもそも樹液とは植物の水分ですから、保持している水分量、吸収できる水分量が多いタイミングによく出ると想像できますよね。
詳細なメカニズムは不明ですが、梅雨中の晴れ間の日などはかなりの樹液流出が見られます。
これに関しては梅雨に夜継続的な水分供給により、利用可能な水分量が多くなることが要因なのではないかと考えます。

6月以降の非常に暑い時期には植物も枯れないように蒸散という水分を葉などから蒸発させる行動を取ります。
これに使われる水分量は想像以上に多く、例としてブナの成木1本が夏場に蒸散する水分量はたった一日で100kgを超えるとの話があります。(一般社団法人日本植物生理学会 ブナの木の蒸散について)
夏場には毎日それだけの量以上の水分が必要であり、体感として梅雨明けと共に供給される水分が減ると樹液は枯れてくる傾向が見られます。

そしてそれに呼応するかのようにクワガタのピークも重なっていきます。
一方で地形的な効果により水分が集まりやすいような場所の場合には、雨の影響などは受けにくいようにも感じます。
例として広場があり開けて踏み固められた地面にあるクヌギと、沢沿いに面した落ち葉の堆積している湿った地面上にあるクヌギでは、前者が梅雨時の6月中に樹液のピークを迎えるのに対し、後者では9月頃まで流出が見られました。
もちろん傾向であり、体感の話です。

樹液は光合成の影響を受けるので太陽光はもちろん、それを受ける植物自体の位置や雨を始め土中の水分条件、気温など複雑な要因が絡み合って出現要因が変わります。
例えば樹液は林縁部で出やすいと言われますが、これは林内と林縁では日差しの差し込みにおいて林縁の方が有利だからと取ることもできます。
そのため、条件がそろえば12月頃でも樹液が出ています。
樹液のピークとクワガタの出現時期、関連性
いろいろな時期に樹液が出るとはいえ昆虫採集のカブト、クワガタに絞ればやはり6月中~7月中旬程度がおすすめですね。

これを裏付ける根拠としては、樹液の出現に合わせてピークを迎えるとされるノコギリクワガタの生態に関する研究があります。

クワガタムシ類(ヒラタクワガタ及びノコギリクワガタの樹液への出現時期ー山梨県低地の二次林においてー(大澤2005))の中でノコギリクワガタの考察に関してこのような記述があります。「ノコギリクワガタの発生する6月下旬~7月中旬は、クヌギの樹液が最も多い時期で、この時期に合わせてノコギリクワガタの発生が行われていると考えられた。」(大澤2005)

このクヌギの樹液に述べる考察は、個人的なカブクワ採集における体感とも合致しており、当ブログ内で度々述べているクワガタの出現に関するピークが6月中旬ごろ~7月中旬ごろまでとする主張とも一致します。


そしてミヤマやノコギリクワガタのこの時期における急激な出現とも一致することから、クワガタにおいては長い年月の経験の中で樹液のピークとなる時期がこのタイミングであると分かっており、集中的に出てくる可能性が考えられますね。
ですから体感と根拠込みで樹液の出る時期は6月の中下旬から7月中旬程度までと把握しておくのが良いかと思います。
ここからさらになぜこの時期の樹液が強いのかを実際に観察した経験から掘り下げていきましょう。
ピーク時が更におすすめな理由
カミキリムシの樹木利用が見られる
樹液はカミキリムシなどの樹木穿孔性の虫が木を傷つけることで流れます。

樹液には血の様に傷口をふさぐ機能があるため、傷ついた直後は樹液がよく出るのですが、時間の経過とともにふさがってしまいます。
逆に言えば樹液の出る木を傷つけるカミキリムシの産卵時期を理解すれば、一過性の樹液ポイントを発見できる可能性があります。


クヌギコナラで重要となるのが、シロスジカミキリとミヤマカミキリで、河川敷ではゴマダラカミキリやウスバカミキリがよく流出に貢献しています。
どれも大型種であり、シロスジやミヤマは健全な木というよりもやや弱った木を、ウスバは衰弱から枯死部を、ゴマダラは生木を利用する傾向があります。
存在を知るには樹液に夜来ている本種を見つけるか、木に残される産卵の痕、もしくは木から出た痕を見つけるのが確実です。

なぜこれらの種が重要かというと身近な種であり、クワガタの活動期に木を加害するためです。
ウスバを除き各種の出現時期は5月~6月でおよそ8月頃まで各種見つかります。ウスバは7~8月です。

ここからさらに彼らの羽化脱出、幼虫の成長期など樹皮下を傷つけるタイミングを考慮することで一過性の樹液ポイントを見つけられる可能性が高まります。
シロスジカミキリを例とすると、このカミキリは成木内部で成長し3年目の秋に羽化、翌初夏に脱出します。
脱出の際に木を齧り外部に出るため、大きく空いた穴から樹液が出ることがあります。


そして産卵時に木を齧ることからその時に樹液が出、その穴がふさがらないと樹皮下を幼虫が食い進むことで樹液が出ます。
1週間ほどで止まることもあればシーズン中使える場合もあります。
具体的なカミキリの成長段階を読み解くのは難しいのですが、産卵痕が見つけられれば一過性の樹液が見つかるかもしれません。
これが新成虫の出現から性成熟(羽化後交尾するまで多少時間がいる)まで数週間かかるので、シロスジの産卵は5~6月の出現後およそ6月上旬から下旬頃に始まり7月中旬ぐらいまで活発に見られます。(これは主観です)
ゆえに樹液の流出時期と重なり、この時期の樹液がよく出る要因をブーストしています。

木々が巨大化した現在では、このカミキリ由来の視点は特に幼木が多い河川敷などで特に有用な手段となります。
河川敷の場合メインとなるのがゴマダラカミキリとウスバカミキリです。
特にフトカミキリ亜科であるゴマダラカミキリはまん丸の脱出痕を残すため、その存在を認識しやすいです。

木から連続的に出るごぼうのような木くずが出ている場合には、そこから樹液が出ている可能性は高いと言えるでしょう。
ゴマダラカミキリは5月末ごろから出現します。


私的なイタヤカエデの観察では6月中の活動が高いようで、水分条件がいいことも相まって、よく観察すると散発的にクワガタやカナブン、スズメバチなどがついています。
これもまた、カミキリ類の出現から産卵までには性成熟で期間を必要とするためだと思われます。

本格的な暑さが来ると継続的な樹液は出なくなりますが、それでも樹皮下を幼虫が削ると樹液が出ているようで、局所的に暑い時期でもクワガタがついていることがありました。
イタヤカエデなどのモミジ類ならばそれらの枝先を利用するアオカミキリ由来と思われる樹液が時折出ているようです。

ということで樹液の流出に関しては水分が多い梅雨とカミキリが樹皮下で活発に行動する時期の重なる6月~7月中旬頃がおススメです。
カミキリ由来の視点は馴染みこそないかもしれませんが、彼らの掘った穴がクワガタの隠れ家になることやその内部で樹液が出ていることを理解できれば、4月中や5月中などの早期採集でも成果を上げやすくなります。
真夏にだけ樹液を探していた人は今回の実体験に基づく情報と、クヌギがこの時期に出るとされる根拠を基に情報をアップデートして、今後の活動に備えましょう。
また、途中で参考にさせていただいた研究はノコギリクワガタやヒラタクワガタを捕まえる人にとても有意義なものなのでぜひ元データを読んでみてください。
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出る時期を知れたら樹液が出る木や樹液の見つけ方、クワガタが出る時期などの理解を深めて採集に挑んでいきましょう。
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引用文献
大澤正嗣,クワガタムシ類(ヒラタクワガタ及びノコギリクワガタ)の樹液への出現時期,山梨県森林総合研究所研究報告,2005,p5-8
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010734849.pdf
参考文献
一般社団法人日本植物生理学会 ブナの木の蒸散について 2015-8,2025.2.16
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3349