道端に生える怪しいブドウのような草
夏から秋ごろにかけて様々なところで紫に熟したブドウの様な見た目の植物を目にします。
間違えて子供がうっかり口にしてしまいそうなこちらの植物ですが、その正体はヨウシュヤマゴボウと呼ばれる有毒植物です。
今回の記事では身近な場所に生える危ない植物ヨウシュヤマゴボウを紹介し、その毒性や種子散布の戦略などを紹介します。
雑草のブドウを見つけたら注意
厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルによれば全草に毒があるとされ、果実にも毒成分であるサポニンを含むとされています。
私も子供ながらにおいしそうな実だなぁと思ったことを思い出しますが、果実も有毒である可能性(後ほど考察)があるため口にしないように気をつけましょう。
ヨウシュヤマゴボウは外来種であり、日本に広く定着しています。
このことが示すのは乾燥したような場所や、空中湿度が低いような場所でもしっかり繁殖ができるということで、彼らはコンクリ沿いなどの在来種が弱い環境で優先的に繁茂しています。
事前に毒のリスクを把握しておきましょう。
ヨウシュヤマゴボウとは
ヨウシュヤマゴボウはその辺の草地で普通に目にすることができる外来種の有毒植物です。ステータスがもりもりです。
変わった花をつける通りヤマゴボウ科の仲間で、日本には自生するヤマゴボウなどの近縁種がいるものの馴染みのない植物だと思われます。
出現時期は5月頃~11月頃までと非常に長く、果実は小さなカボチャのような特徴的な形をしています。花期も長く6月~10月頃まで代わる代わる見られます。
草丈は大きいと2m程になり、茎が紫色というかなり固有の色合いをしているため、見分けは容易です。
この実は熟すと紫色になり、スーパーに並ぶ果物と同様に鳥によって種子を散布してもらいます。身近な鳥がこれに貢献するため、都市部の街中でもよく目にします。
おいしそうな実と毒性について
前述の通り厚生労働省の自然毒リスクプロファイルでは全草に有毒成分であるサポニンを含み、果実も有毒。食後2時間ほどでけいれんなどの症状が出ると指摘されています。
サポニンは鳥などにも有毒であり、これはエゴノキというエゴサポニンを含む果実をヤマガラ以外の鳥は利用しない(ヤマガラは利用可)ことから鳥へのサポニンの影響は効果があることが推測できます。
webなどで情報収集をするとヒヨドリやオナガなどが実際にこのヨウシュヤマゴボウを利用している情報があり、サポニンと鳥を取り巻く関係に疑問がわいてきます。
ヨウシュヤマゴボウの毒性について考察してみましょう。
(私的な考察なので楽しむ程度にしてください)
毒性の考察
まず考え付いたのは果実の毒性が薄く、種子の毒性が強いというパターンです。ヨウシュヤマゴボウが鳥に食べられ、鳥散布であるという話はよく聞きます。
実際そのような性質を持つ植物があります。針葉樹でおなじみのイチイという植物です。
イチイは赤い果肉に茶色っぽい種を持ちます。種は有毒成分を含み痙攣などを引き起こすとされていますが、果実に毒はなくおいしい植物です。
ヨウシュヤマゴボウも同様に果肉や果皮には毒が含まれていないか弱く、種は有毒であるというケースは考えられます。
またもう一つの事例としてエゴノキの有毒成分(エゴサポニン)の季節による変化を検証した実験からも考察ができそうです。
この研究によればエゴノキの果皮に含まれるサポニンは敵となる昆虫や菌類の多くなる時期に増えることが指摘されています。
同時期には種子においてもサポニン量が増えており、この含有量は季節が進むにつれて薄くなっていくと指摘されています。
ヤマガラはこのサポニンを含む果皮を剝ぐことができることからエゴの実を利用できると推測されており、持ち運んだエゴの実を貯蔵することでその種子のサポニン含有量が下がるのを待ち、食べているのではないかと話が展開されていきます。
研究によれば果実がなくなり落下したエゴの実のサポニン含有量はなぜか減少したそうで、これはトチノキ(落下してもサポニンが減らない)と異なるサポニン変化に関わる要因があると指摘されています。
同様にサポニンを持ちつつ鳥に食べられるヨウシュヤマゴボウも果肉ではなく果皮や種に毒性分が含まれており、季節の変化によりその濃度が変化するのではないかというのが2つ目の考察です。
いずれにしても毒性分であるサポニンを持ちつつ、鳥に食べられるというのは不思議な話です。
その後観察を続けていると秋になり、シカにも食べられているのを発見しました。ヨウシュヤマゴボウの毒に関する話はますますよくわからなくなってしまいましたね。
なぜ危険なのにその辺に生えるか
有毒植物で危険なのになぜこんなにも大量にその辺に生えているのか?という点を不思議に思う方もいるでしょう。
このヨウシュヤマゴボウは例えば荒れ地、コンクリ、空き地などでも平然と生えています。
この植物はタラの木やワラビと同じく開発や森林火災の後などの開けた環境に入る植物なんですね。
先駆植物(せんくしょくぶつ)やパイオニア植物などと呼ばれますが、開拓された場所に素早く入り、他の植物が育つ前に大きく成長し優先するという性質を持ちます。
ヨウシュヤマゴボウはふと気が付くと驚く位大きくなっている植物ですが、それはこの性質に由来します。
斜面を伐採した後や森林火災の後などは元々あった植物が積み重なり有機物に富んでいたり、火災の灰により酸度が中和されて植物が栄養吸収しやすい環境が作られています。
こうした場所に虫を食べる鳥などが来ると(畑地のように作業後は虫が出る)食事をしつつ糞をするので潜入することができます。
種子散布を鳥に頼る植物を中心に生態系を覗いてみるととてもうまく機能しているということがよくわかりますね。
日本においてはタラノキやワラビ、タケニグサなどがあります。こうした植物が街中で定着するのは困難であり、ヨウシュヤマゴボウには競合となるライバルが同じ外来種である場合が多いです。
そのため街中には外来種が当たり前の様に繁茂してしまっているんですね。
まとめ
ヨウシュヤマゴボウは身近な環境に生えるぶどうのような有毒植物です。外来種であり、有毒らしい毒々しい見た目からやたら印象に残ります。
その生態は謎に包まれており、全草に有毒成分サポニンを含みながらも鳥に食べられるという不思議な戦略を取り、いろいろと考察が楽しい植物です。
なぜ有毒植物、効能を持つ果実を鳥が利用できるのかは不明ですが、鳥に食べられているのでからくりがあるようです。
この性質とパイオニア植物である性質をうまく利用することでヨウシュヤマゴボウは在来種が侵入できない場所に入り込み、生息地を広げています。
外来種の分布拡大戦略を覗くのに適した対象であるため、見かけた際にはじっくり観察してみてください。
参考文献
ヤマガラによる貯蔵散布がエゴノキ種子の発芽に及ぼす影響
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在来のパイオニア植物としてタラノキを紹介します。春には山菜として名を連ねるタラの芽ですが、ススキ原や伐採地など、密集空間から生まれたスペースに入り込む印象が強い山地性のパイオニア植物です。
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秋の身近な有毒植物イヌホオズキの仲間は黒や緑のトマト状の実をつけます。全草有毒な植物です。
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記事中で紹介したヤマガラとエゴノキです。