蓼食う虫も好き好き

知っているとちょっとお得で日々の観察が楽しくなる自然の魅力を発信します。画像の無断転載は禁止です。

ベニシジミは黒とオレンジ色のシジミチョウ。スイバを利用し草地に生息する鮮やかな蝶を紹介

オレンジの珍しそうなシジミチョウ

身近ながら超キレイな蝶

春の3月から遅いと11月頃まで、主に草地を中心に非常に鮮やかなオレンジ色のシジミチョウを目にすることができます。

この蝶は普通種でありながら大変美しく、季節による色の変化や比較的大人しめな性格により観察もしやすいとてもおすすめのチョウです。

今回の記事ではオレンジ色のシジミチョウ、ベニシジミの魅力を紹介していきます。

ベニシジミとは

日の光を受けると輝いている

ベニシジミは冬を除いた幅広い期間目にすることができるシジミチョウの仲間です。

表は渋い感じの色合い。オレンジが強調されている

表翅は黒みがかっており、裏翅は銀色とオレンジの色合いで高級品のような艶があります。

幼虫は草地や荒れ地などに生えるギシギシやスイバなどのタデ科植物を利用します。

もこもこの花をつけるスイバ

これらタデ科植物は酸性土壌を好む傾向がありますが、日本の土壌は様々な条件の結果酸性になりやすく、このタデ科の仲間は至る所に生えています。

明るい草地がオススメ

なので公園などの人工的な環境、河原などのかく乱が入るような場所、家を壊した後の草地などあらゆる環境で生息することが可能なタフな蝶です。

成虫は3月頃から出現し、次々世代交代をしながら11月頃まで見ることが可能です。季節により若干色が変わり、大きく分けて春型と夏型があります。

発生の多さと季節型のおかげでいつ目にしても楽しめるいい蝶だと言えます。

生息環境

草地に生えるキク科によくやってくる

ベニシジミは主に草地環境で見かける機会が多いです。

チョウ類の出現は食草と関連しており、幼虫の食草となるスイバやギシギシもそういう環境で見かけることが多いためです。

成虫は吸蜜のために花を訪れます。

春はシロツメクサなどのマメ科類、秋はセンダングサなどのキク科類でよく目にします。

これらの植物は外来種ですが、もはや日本に当たり前の顔なじみのように存在しており、不本意ながら在来のチョウは草地に生える外来種の植物をよく利用しています。

チョウ類が優先的に利用するセンダングサ

マメ科やキク科は花数が多く、特有の細長い形をするものが多いことからチョウ類や口の長いハナバチ類に花粉の運搬を頼っています。

外来の植物は近年話題に挙がりますが外来種がたくさん入ってきているのではなく、そうした日本の環境に適応している個体が猛威を振るっています。

ウラナミシジミやヤマトシジミ。様々な蝶が現れる

草地ではベニシジミを始めとするシジミ類がセンダングサにメロメロになっています。秋ならばセンダングサを探しましょう。


季節型

ベニシジミは季節によって色が変わります。

ベニシジミの表翅の雰囲気(秋のもの)

共通しているのは表翅がオレンジ色と黒色という点ですが、春型と夏型によりその割合が変わってきます。

爽やかなカラー

一方で裏翅は大きくは変わらず、どちらも銀色の光沢と翅先のオレンジが目立ちます。

新成虫であればあるほどこの銀の艶を楽しめるので、鮮度のいい個体を探すのがコツですね。

黒の強さと割合が低く、全体的に明るい春型

春型は春のさわやかさを連想させるような鮮やかなオレンジ色が特徴的で、その割合が広いです。

季節的にも気温が低い場合などはこのようにじっくりと観察できるので、比較的みやすいですね。

黒味がない分清楚な印象を受ける

特に写真のような新成虫はオレンジの金属光沢がビカビカと光っており、必見の美しさです。

実物はかなり黒い

夏型は黒味が濃く、オレンジがより映えるような色合いをしています。

ベニシジミらしいオレンジ感は夏型のほうが楽しめるように感じます。危険を表す警告色のように黒字に乗っている僅かなオレンジが強烈に見えますね。

とはいえ違いは些細なもの

夏型の観察は春型と比べるとちょっと難しいかもしれません。

気温が高く活性が高いので、チョウ密度が高いような場所の花で待ち伏せするのが撮影や観察のコツだと思います。

センダングサをうまく利用しましょう。

チョウ類と訪花の種類

ベニシジミの観察に適した花の種類として春はマメ科のシロツメクサ、秋はセンダングサを上げました。

コシロノセンダングサ。センダングサは種類も多い

フィールドで撮影していると気が付くのですが、マメ科やキク科はとてもよくチョウ類に利用されています。

これを疑問に思っていたのですがチョウ類の訪花植物に関する研究がありました。

この研究では94種の蝶が生息している北海道の北見でチョウが訪花した種類と種ごとに訪れた花の種数を計測したものです。

ヒメジョオンとダイミョウセセリ。蝶がよく来るキク科

このうち植物のカテゴリーとして最も訪れられたものはキク科のものであり、訪花数の多いものの1位と2位をヒメジョオンとセイヨウタンポポが飾っています。

黄色の筒状花と白色の舌状花の2種類

キク科の花は2種の花を持つ特殊な花を持っており、その中でも筒状花(とうじょうか)は細長く数をたくさんつけることからチョウ類に有利に働くものだと推測されます。

アカツメクサやシロツメクサ(クローバー)なども上位にランクインしています。

2つの花びらが上下に重なる感じ

マメ科の蝶形花もかなり特殊な形をしています。体重のある虫に花粉を運搬してもらう戦略を取る植物ですが、チョウ類はその隙間から蜜を吸うような行動を取ることを確認しています。 

花数が多いものほど蜜がたくさん残るので訪花性の昆虫を観察しやすいと捉えられます。

チョウ類は自分たちが利用しやすいライバルの少ない花を利用することで、エネルギーとなる蜜を効率的に集めているのかもしれませんね。

食後は葉の上でお休み?

ちなみに同研究ではどの種がどの程度の花数を訪れるのかという点も分析しており、ベニシジミにおいては北見市にある101種もの植物を利用したと指摘されています。

春にヒメジョオンに来たベニシジミ

私の身近では優先的に目にする植物としてシロツメクサやヒメジョオン、センダングサ類を上げましたがそれ以外にもかなり多くの植物を利用しているようです。

幅広い植物を利用できる彼らの生態こそ美しい姿でありながらこんなに身近で見かけられる理由なのでしょうね。

こんな話をしていたら私の地域では何種類の植物を利用するのか気になってきました。蝶の訪花についてより詳しく知りたいですね。

まとめ


オレンジや黒色が目立つシジミチョウはベニシジミというチョウで、草地や荒れ地など酸性土壌に生えるスイバなどのタデ科植物を利用しています。

発生回数が多く、季節型により色が変わっていくこともありとても観察していて楽しい蝶です。
私の地域では春はヒメジョオンやシロツメクサ、秋はセンダングサで見かける機会が多いです。しかし研究によれば非常に多様な花を訪れる種だということができます。

参考文献
蝶と訪花植物の関係について。「北見の蝶(1994)」の訪花記録から見えてくること

pljbnature.com
同時期に同じ花で見られるウラナミシジミ。色の派手さではベニシジミに負けますが、秋らしい色合いと波模様が美しい蝶です。
関東では秋にしか見られないことが多いです。

pljbnature.com
草地で最も普通に見られるヤマトシジミ。意外と奥深くてよく知らない蝶の紹介です。

pljbnature.com
草地環境の細長い花にはアゲハチョウも来ます。探すにはまた別のアプローチが必要です。

pljbnature.com
草地の採集には危険がたくさんあります。採集に関連する様々な基礎知識を学んでおきましょう。