蓼食う虫も好き好き

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春に現れる黒と黄色の毛虫キアシドクガ。毒毛虫の多いドクガ科の仲間。

黄色と黒の毛虫が大発生


春の終わりごろにとんでもない数の毛虫を見かけたなら本種の可能性が高いです。

キアシドクガと名付けられていますが、実際には毒を持たず無害な毛虫です。

しかしキアシドクガは局所的に大発生し、嫌悪感とともに度々話題になります。

今日はそんなネガティブな印象の強いキアシドクガを紹介します。

キアシドクガの生態


幼虫の発生はミズキの仲間に限られ、4月中旬ごろから5月上旬ごろまで見られます。

大量発生している場合には下に黒い糞が溜まっていることが多いです。

更にあまりにも多くの幼虫が葉を食べるため、パリパリという音が周囲に響き渡る異様な空間ができます。

ミズキは大木になる木で、大きいものでは10mを超える大きさになります。

大発生した場合にはこのミズキの大木の葉がすべてなくなっているだけにとどまらず、花まで食べ始めます。

(丸坊主にされたミズキ)

葉が無くなるとキアシドクガは糸を使ってぶら下がり、別のミズキを求めて大移動を始めます。

この際に数百匹単位の毛虫が移動をするので、波のうねりのように幼虫による黒い波が見られます。 苦手な人には強烈な昆虫です。


この程度は序の口にすぎません。酷いと手すりなども全てこの幼虫まみれになります。


彼らの食草であるミズキはこの時期にふわりと浮いた雲のような特徴的な白い花をつけます。

花が咲いた頃ぐらいから彼らの進行が始まります。発生数によっては文字通り花まで丸裸にされてしまいます。

とはいえ彼らは不快なだけで毒を持つわけではなく、3週間程度で姿を消してしまいます。

1時の出現に驚いて殺虫剤などを撒いてしまうと周辺の生態系への悪影響が出ます。

キアシドクガはこの時期の生態系にも貢献してくれる生き物なのです。

キアシドクガと自然の関わりを見てみよう。


キアシドクガは大量発生することでミズキに大きなダメージを与えます。

数年続くと時にはミズキを枯らしてしまうこともあります。

しかし生態系においては木々が枯れるということは林床の新しい芽生えの促進、木材が持っていた栄養分の土壌への還元、枯損木にやってくる昆虫類の増加などと関わってきます。

枯損木についてはミズキ科を利用するフタコブルリハナカミキリが代表的でしょうか?

レッドデータに記載されているわけではありませんが、なかなか遭遇できないカミキリです。

白い花に集まり、ミズキの立ち枯れや伐採木に集まります。

神奈川の丹沢エリアでは黒化型と言って足が黒い地域変異個体がいます。ミズキ科の枯れ木ということでキアシドクガと関わりが深い虫と言えるでしょう。

また、幼虫は初夏の鳥たちにとっては貴重なごちそうになります。

キアシドクガの成虫


キアシドクガは成虫を見ることでピンとくる方も多いと思います。食草のミズキの周りをヒラヒラと白い成虫が飛び回るので、幼虫よりも一般の方の目に付きやすいのです。

成虫には見ての通り口がなく、寿命は数日程度しか有りません。その中で命をつなぐため、基本的に食草から離れません。

天敵などに襲われると死んだふりをする性質があります。おかげで観察はしやすいです。キアシドクガの由来はこの黄色い足から来ているんですね。

キアシドクガと毒について


初見ではグロテスクという印象を受けるキアシドクガですが、見た目に反して毒はありません。

その触れたらマズそうという意識こそ彼らが天敵である鳥などに持たせている戦略なのです。

毛虫の大半は毒を持っているという認識は結構な人が持っています。

しかし毒持ちの毛虫はドクガの一部、カレハガの一部など限られ、全体の10%程度です。殆どの毛虫は触れても大丈夫なのですね。

しかしこのように黒い系統の毛虫は多くいます。

こいつはヨツボシホソバといい、毒のある毛虫です。

鳥や人間などの天敵が毒のある黒い毛虫に触れると痛い思いをするので、必然的に黒い毛虫を避けるようになるのです。

なので種類の見分けができればこのように触れても全く問題はありません。毒がありそうと思わせる時点で彼らの戦略勝ちなのです。

大量発生するその見た目からかなり嫌われる虫ではありますが、自然の世界を覗き見るのに非常に良い題材です。ぜひ気持ち悪いで終わらせずに彼らの生活に目を向けてみてください。面白いですよ。

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ドクガの仲間の毒を持つ種類の方を紹介します。併せてミュラー擬態の面白い戦略も紹介します。

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同時期に現れるオレンジと水色の派手な幼虫です。こちらもキアシドクガと同様に毒はありません。触ってみませんか?


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頭を高速メトロノームのように振ることで威嚇する面白い幼虫の紹介です。初夏から秋まで目にできます。