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道路上で轢かれているカマキリの不思議を考察。寄生が関係するのか?

秋、カマキリが轢かれて死んでいる

タコセンベイのように潰れてしまったカマキリ。道路で死んでいる割合はかなり高い。

秋の昆虫といえばカマキリ。

寄生生物ハリガネムシを介した生態系を学ぶ対象として、色彩変異の面白さを学ぶ昆虫として、巨大なカマで獲物を捕らえる捕食者として色々な面から自然の魅力が学べるとてもいい観察対象と言えます。

カマキリが道路で轢かれて死んでいるというタイトルを聞いてそんなことないけど?と感じた方も多いかと思います。

一方で秋は道路でカマキリが大量死しているのは日常茶飯事という反応の方もいるかと思います。

この違いは何に由来するのか?なぜ道路で死ぬのか?というのを考察していきましょう。

カマキリとは?

カマキリはカマキリ科に所属する昆虫です。

珍しい茶色のハラビロカマキリ。出会う機会の少ない個体。

大きな鎌で昆虫を捉え、捕食する他の虫にはなかなか見られない捕食戦略をとります。

身近な代表種はオオカマキリやハラビロカマキリで、特にオオカマキリでは体長が10㎝を超えるものもいるなど昆虫界で見ても大型の虫です。

体色は基本的に緑か茶色をしていますが、一部の種類ではそれらのハイブリッドが出現するなど、同じ昆虫類のバッタと同様の配色変化が見られます。

可愛らしさが人気のコカマキリ。茶色が多い種類。

しかしながらカマキリの場合には体色は遺伝子であらかじめ決まっているようで、脱皮による変化はないようです。

干からびたハリガネムシ。本来は水生生物である。

重要な寄生生物としてハリガネムシがおり、彼らを通じて渓流から地上の栄養循環を担っています。

道路で死ぬカマキリと道路に出ないカマキリ

まず導入部で説明した道路へのカマキリの出現ですが、どちらも正しいというのが正解です。

怪しいハラビロカマキリ。灰色と白色への執着が見られる。

実は道路へのカマキリの出現は寄生生物であるハリガネムシに由来する可能性が考えられます。

ハリガネムシは本来水中と陸地を行き来する生物であるため、彼らの出現は水辺が近くにある環境に限られます。

秋口に水辺が近くにある場所にお住まいの方には道路で轢かれるカマキリがなじみ深いものとなり、逆にそれ以外の場合には道路にカマキリなんていないとなるわけです。

後者の方へ説明すると秋になるとこのように車に轢かれてぺしゃんこになったカマキリと、その隣で死亡したハリガネムシという構図がかなり目につきます。
(お互い単品なケースも多い)それこそ数m単位で目にすることもあります。

2者は離れていることも多い。潰れないハリガネムシは別の車のタイヤで移動してしまう。

寄生生物による寄生が地域によって昆虫の見られやすさに影響を与えるというのはかなりユニークな現象で面白いと思いませんか?

なぜ道路で死ぬのか

ここまで読んで気になるのはカマキリはなぜ道路に出てくるのかという点ですよね。

轢かれる割合は私の地域では6~7割ほどがハラビロカマキリ。

これは推測になりますが寄生生物側の視点から見ていくと仮説が立てられます。

これはカマキリ側では分からない問題であるため、詳細な記事を見ていただくのがより分かりやすいかと思います。
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非常に簡略化して結論を述べると、ハリガネムシは水面に反射する光を感知してカマキリを水辺に誘導することが分かっています。ここまでは確実な根拠があります。

このように反射した光を感知している。

光は物体に当たると対象の吸収、反射が行われます。反射については色ごとに吸収しやすい色や反射しやすい色というのがあり、有名なものとしては夏場の服の色による温度差などが有名です。

黒や青がより熱くなりやすく、白やグレーは反射するため快適というものです。

逆にいうと紫外線を反射する白や灰色は虫からは見えやすい。ライトトラップの幕が白なのも理由がある。

日傘の色合いなどは実はこれに基づいており、地味ながら馴染みのあるものだったりします。

道路というのは大抵の場合灰色をしています。灰色は光を反射しやすいので詳細な波長などは不明ですが、水面に反射した光の波長に近いものがあるのではないかと推測するとつじつまが合います。

実際のところ水辺の近くにいるカマキリと道路上にいるカマキリは挙動が似ており、人の気配が近づいても大きく動くことな少なく、ロボットのように確実に光の下へ向かっている様子が見てとれます。

目的地についたからかつついても逃げる行動など取らない不自然な個体。

本来ハラビロカマキリなどは大きな対象にはとても敏感で、その体からは考えられないスピードで駆け抜けていくものですが、ハリガネムシに寄生されて道路にいる物にはその雰囲気は見られません。

このことからも道路反射の光がハリガネムシに何かしらの影響を与えている可能性は高いと考えられます。

また、樹上性のハラビロカマキリは木の高い所から反射光を探している可能性が高いと考えられます。

ハラビロの性質がハリガネムシにとっても有利説。根拠はありません。

それが道路の反射光に誘引されてくると考えれば轢かれているカマキリにハラビロカマキリが多いというのも筋が通ります。

この秋の時期はカマキリの存在を感知できなくても水辺近くのエリアで道路上を見ればカマキリに簡単に遭遇できます。

カマキリとハリガネムシのライフサイクルは自然の面白さを知る格好の題材なので、どちらの生き物でも興味があればそういった生態面から探してみてください。

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近年神奈川でも分布拡大中の外来ハラビロカマキリ。かなり在来に似たものもおり、捕まえないと判別しにくい場合もあります。かっこいいんですけどね。
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カマキリから生態系を覗く視点としてとてもおすすめです。ハリガネムシが渓流の生態系や海産物に貢献している可能性など、カマキリを通じた寄生関係はとても魅力があります。
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種類や捕まえたい場合などはこの記事がおすすめです。不完全変態と言って姿が大きく変わらないカマキリは昆虫の成長過程を知るうえでも面白いものです。