紅葉シーズンは10月から始まる
紅葉シーズンは冬の入り口である11月下旬の印象が強いですが、10月に入れば様々な樹木が早くも色づき始めます。
紅葉=モミジの印象が強いかもしれませんが、赤色だけでなく黄色に変わる黄葉やそれらの混ざったグラデーションも大変美しいものです。
今回の記事では冬以外にこそ楽しめる紅葉の美しい樹種を紹介し、紅葉観察をより楽しむための知識を紹介します。分かりやすくするためになるべく専門用語をなるべく避けて話していきます。
紅葉はいつから楽しめる?
初冬の印象が強い紅葉ですが、10月に入れば早くも紅葉は始まっています。
紅葉の代表種はカエデの仲間であるイロハモミジだと思います。ところがイロハモミジの紅葉というのは紅葉シーズンの締めくくりなんですね。
モミジの紅葉は大変美しいものですが、それ以外にも美しい色づきを見せてくれる植物は多々あります。
それらを知らずにモミジの時期だけ見て満足してしまうのは大変もったいないと言わざるを得ません。
同時期に色合いが変化しないのはまさに植物の多様性がなせる業です。
紅葉観察はある意味で生物多様性の観察ともいえるのです。
手始めに紅葉がなぜ起こるかを説明していきます。メカニズム的な視点を押さえておくと紅葉を植物の生命活動としてとらえられてとても面白く見れます。
紅葉を見るのが楽しくなる豆知識
色の足し引きを絵の具などに例えて紹介していきます。
緑、黄色、赤色などの色素を持つ
紅葉は植物が冬に備えて葉に残る栄養を吸収する過程で起こる現象です。
植物は秋にだけ赤色や黄色になると捉えている方もいますが、特定の色に見える色素というのは常に持っています。
代表例で挙げると緑色に見えるクロロフィル(緑色)、カロテノイド(オレンジ色)、アントシアニン(赤色)が代表的ですね。
難しい言葉に聞こえますがクロロフィルは葉緑素、カロテノイドはニンジン、アントシアニンはブルーベリーなどに含まれている身近な色素です。
植物は常にこれらの色素を持っていますが、春や夏などの栄養を光合成により稼ぐ時期にはクロロフィル(緑)の割合が圧倒的に多いのです。
絵具を想像すると分かりやすいかもしれません。
大量の緑色の絵具に僅かな黄色や赤を混ぜても絵具の色は緑色のままですよね。それと同じ現象が葉でも起きています。
茎の付け根が変化する
季節が進み冬に近づいてくると植物は葉を維持するよりも落とした方がエネルギー効率が良いため、葉を落として休眠状態に入ります。
その際に葉に含まれているクロロフィルを始めとする様々な養分を吸収していくため、緑の色素の割合が減少していきます。
緑色の色素が減っていく過程では茎の付け根に特殊な状態(離層)が形成され、水分などの行き来が止まり始めます。
クロロフィルは少しずつ分解されるため、残されたものが太陽光を受けて糖類を合成しますが、それらは吸収されず葉に残ったままになります。
この糖類に太陽光が当たると、赤色色素であるアントシアニンが作られていきます。よく見ていくと葉が重なって日のあたらない場所には赤色が見られないことに気が付けます。
同時期に赤と緑色が生じるため、紅葉シーズン中には黒ずんだような葉や、マーブル状の葉が良く目につきます。
だんだんと緑色の色素が減っていきオレンジや黄色、赤といった色素の割合が増えてくることで美しい色合いが作られます。
紅葉観察に重要となる気温と日の光
紅葉のメカニズムをかみ砕いて説明しました。
紅葉の記事をご覧の方が気になるのは、美しい紅葉はどのようにして見られるかという点ですよね。
紅葉には前述のように赤色色素であるアントシアニンが関わっています。(厳密にはアントシアニジンですがややこしいのでアントシアニンとします)
「美しい紅葉を見るためには寒暖差が必要です」と言われますがなぜでしょうか?
ここに緑色の色素の分解が引き起こされるトリガーが関わってきます。
汚い紅葉というのは赤色と緑色が混雑していて色素が単色でない場合です。(絵具の緑と赤が混じった状態)
逆に美しい紅葉というのは黄色や赤色の色素が単独で存在している場合です。
美しい紅葉には緑色の色素をいかに分解し、黄色と赤の色素を出していくかが重要になります。これのカギとなるのが低い気温と太陽光なのです。
緑色の色素であるクロロフィルは先ほどの葉の付け根に特殊な部分が形成された後に分解されていきます。
太陽の光は赤色色素の形成と緑の分解に必要なため、紅葉時期にはとても重要な要素なのです。
昼間よく太陽にあてて緑色素分解と赤色色素を合成し(昼間日が当たり気温が高い)、8℃以下低温で緑色色素のもとであるクロロフィルの活性が落ちる必要があります。(夜間の気温が低い)
日照時間に関しては参考になりそうなものがあり、糖類を含ませた葉に平均11時間太陽光を照射した場合9割の赤色割合になり、平均日照時間が4.8時間の時には斑点状の赤い点だけが出たという話があります。
ここから推測できるのはいい紅葉が見られる年というのは秋以降対象植物の紅葉シーズンに昼間は日差しがよく刺す暖かい日が多く、夜の気温が低いことが重要だと推測できますね。
逆に紅葉シーズンに秋雨前線を始めとする長い雨が続いて日が足りないとアントシアニンの生成が甘く、微妙な紅葉になると言えます。
日光などを始め山地での紅葉が美しいとされるのは、一般に気温は100mで0.6度下がることから平地よりも寒暖差が大きく、アントシアニンの生成が活発になり、かつ緑色素も良く分解されるからと捉えることができます。
主要なモミジ以外で注目してほしい早期紅葉樹木
紅葉というとイロハモミジやヤマモミジなどの細い葉のカエデ科樹木が注目されます。
これらの紅葉は11月下旬~12月中旬であり、非常に時期が遅いです。一方でそれよりもずっと前にも美しい紅葉を見せてくれる植物があります。前哨戦として紅葉を楽しんでいきましょう。
カツラ
カツラは黄葉がとても美しい植物です。
葉の付き方が対になっているのでシンメトリーで美しく、黄葉シーズンには綿あめの屋台が発するようないい香りを楽しむことができます。
この落葉時期になると木の判別ができなくても香りだけでカツラを発見することができます。
公園樹木として植栽されていることも多く、目で見て鼻でも楽しめるとてもいい植物なので、ぜひ10月頭頃に注目してみてください。
サクラ
他の樹木よりもかなり早く紅葉します。
9月下旬頃より色づきが見られ。10月中には葉が散ってしまいます。サクラはクマリンという特有の香り成分を含んでおり、これは桜餅などでおなじみの香りです。
紅葉シーズンには地面から桜餅の香りが漂っているためいい気分になれます。
サクラとアントシアニンはとても関りが深く、前述のようにアントシアニンは低温で生成されやすいという話をしましたね。
低温期に蕾をつける桜の花は、冬の間はとても濃い赤色をしています。
春の訪れとともにアントシアニンは分解され、淡いピンク色になるんですね。冬に咲く梅やカワヅザクラが濃いピンク色をしているのは、品種の可能性もありますが色素であるアントシアニンの性質も関わっているのではないかと考察してしまいますね。
ヤマボウシ
気温条件が良ければとても美しく紅葉してくれるのがヤマボウシです。10月後半頃から色づき始め、夏の花、初秋の実、晩秋の紅葉と長い間楽しませてくれます。いたるところに植栽されているのもいい点ですね。
イタヤカエデ
イロハモミジよりも早く黄葉するモミジの仲間です。カエデの仲間の中ではマイナーな樹木で、紅葉ピーク前にベストなタイミングを終えてしまうため、知られざるいい樹木です。
まとめ
気が付かないうちに樹木の紅葉は始まっています。桜が先陣を切り早いものではツツジ類やカエデの仲間も密かにその色合いを変えていきます。
紅葉の生態的なシステムはなかなかに複雑ですが、色素の分解と生成を理解しておくとその複雑な色合いや年による色の強さの具合などがより楽しめるようになります。
今回の記事を参考にぜひこれからの紅葉シーズンを楽しんでください。