高尾山のアオマダラタマムシ
虫好きにタマムシの魅力を手頃に伝えてくれたタマムシハンドブック。
その中で中型のタマムシでありながらも東京神奈川エリアで非常に個体数の記録が少ないアオマダラタマムシというタマムシがいます。
ヤマトタマムシにレリーフのような加工をしたような美麗種に会いたくて今年数度高尾山を登ってきました。
結果出会えなかったのですが、同様に探している方がいればと思い情報共有をします。
アオマダラタマムシとは
アオマダラタマムシはヤマトタマムシよりも小さいサイズ感の中型タマムシです。
出現期間が非常に長く、4月下旬~8月頃まで目にすることが可能とされています。
しかし東京神奈川エリアでの記録はかなり薄く、ここ神奈川では2例ほどの記録があるのみですし東京においても本当に1部地域で局所的に発生している程度のようです。
タマムシの仲間らしく色彩変異が豊富なようで、クロホシタマムシやマスダクロホシタマムシ(写真のもの)と同じように発生初期には赤みやオレンジ色の強い個体が現れ、夏に近づいていくに連れて緑みの強い個体が多くなる傾向にあるようです。
タマムシハンドブックによれば幼虫はモチノキ科の植物を利用し、成虫は桜など幅広い植物を食べるとされています。
webで調べた所高尾山での記録があり、アクセスのしやすさを考慮してここで探してみることにしました。
食草となるアオハダ
アオマダラタマムシの食草にはモチノキ科のいくつかの植物が挙げられます。
最も名が上がるのはアオハダという植物で、イヌツゲが次点でしょう。
発生密度の高い所では植え込みのイヌツゲで発生するなど一応見る必要がありそうです。
さて、このアオハダなのですがカブクワの木であるクヌギコナラなどと比べればあまりにもマイナーな樹木であると言わざるを得ません。
現時点でアオハダにつく他の虫は知らず、アオマダラタマムシ一本狙いの厳しい採集となりそうです。
しかも探したことがないので自然下でのアオハダがわかりません。アオマダラタマムシ採集のためのアオハダ探しが必要になりますね。
高尾山に2000種類あると言われている植物の中から特定の1種を不確実な中で見つけるのが非常に難しいということは言うまでも有りませんよね。
しかしそれをしてでも会ってみたい美しい虫なのです。
アオハダに苦戦
調査日はアオマダラタマムシの発生初期から1月たった6月頃にしました。
ある程度時間が経ち、性成熟したタイミングのほうが産卵個体に出会いやすいと考えたためです。
この時期の高尾には腐生植物などの副産物が楽しいので、気を紛らわせながら探すことにします。
そんな期待を胸に1日めの調査を始めたわけですが、なんと一日目はアオハダに遭遇できませんでした。
植物図鑑などをお持ちの方は分かりやすいと思いますが、図鑑で特徴を掴んだつもりであっても実物の葉の大きさや艶感などの感覚は一切わかりません。生えている環境なども分からないため、とにかく類似の植物に騙されがちです。
結局2回目の調査の時にアオハダの名前がついた樹名板を見ることで正しいアオハダを理解し、その後結構生えている植物であるということが分かりました。この0を1にすると言うのが難しくも有り醍醐味と言いますか一番大変ですよね。
アオハダの生えている環境について
観察の結果アオハダはかなり巨大な樹木であることが分かりました。
樹高は20m程度あり、広葉樹らしくやや日当たりのある環境を好みます。大型のアオハダの場合には既にそのエリアでの優占種となっていることがあり、その場合には林床が暗くても見つかります。
基本的に小型~樹高10m程度の小さなアオハダの場合には差し込む光が必要なので、やや明るい広葉樹林を見ていけば出会えると思います。
高尾山でアオハダを見る目を鍛えた後他のいくつかの場所に行きましたが、アオハダは普通に生えていました。
高尾においては低標高ではあまり見られず、中腹以降の4号路や各観光路の頂上付近、稲荷山コースではところどころに良さげなサイズのアオハダが見られました。
アオハダは黄葉が美しいとされる植物でもあるので、アオマダラタマムシに興味のある方は秋の時期に下見をしてみるのも良さそうですね。目さえ鍛えられれば予想よりもだいぶ見つかる植物のようです。
4号路
4号路は登山道の後半にかけてよくアオハダが見られます。
4号路のコース説明にも黄葉のアオハダに関する説明があり、広葉樹林であるこの観光路は相性がいいようです。
終盤に樹名板が有り、アオハダがわからない人が感覚を掴むのに最適です。いずれのアオハダもかなり大きく、低所には脱出痕や産卵痕などは見られませんでした。
アオマダラタマムシの採集記を読んでみると小~中程度のアオハダの根本で採取している事例を目にしますが、ここ高尾においてはアオハダがどれも大型です。
思うに大木の枯損部で採集することになるのではないかと思われます。
稲荷山コース
稲荷山コースは良さそうな気配を感じましたね。
痕跡は全然ないのですがアオハダの数が多く、夏場であれば人気のアオタマムシ(最初の写真)と並行して探せそうなので楽しそうでした。
枯損部のあるアオハダはとても少なくどれも元気な感じです。正直なところアオマダラタマムシの気配は感じません。
冬季採集も可能
アオマダラタマムシの採集には2通りの方法があります。
1つが発生期にモチノキ科の産卵木を見ていくというものです。
今回紹介してきた方法がまさにそうですね。5回高尾に登り、アオマダラタマムシに遭遇することはできませんでした。
1度心折れてしまったわけですが、タマムシの仲間には冬の採集が可能なものもいます。
アオマダラタマムシは成虫がアオハダの枯損部で越冬するタイプのタマムシなので大きなアオハダを事前に見つけておけば、例えば秋以降の台風や大雨、木枯らしなどで枯損部が落下した際にアオマダラタマムシが入っている可能性があります。
カミキリムシの一部やタマムシの採集ではこのような方法でも成果を挙げられる場合があります。
夏はだめでしたが秋以降にも諦めずに挑戦してみたいですね。
まとめ
高尾山のアオマダラタマムシ採集においてはアオハダが重要です。
現地では4号路や稲荷山コースなどで普通に見られますが、馴染みのない植物なので4号路の樹名板を最初に見ることをオススメします。
高尾山においては巨大なアオハダが多いため、発生は上部の太い枯損部になるだろうと予想されます。
そのため発生期の採集よりも材を狙う冬季採集のほうが成果は挙げられるかもしれません。
5回ほど見て回った結果、高尾においてアオマダラタマムシを狙うのはとても効率が悪そうです。アオハダの感覚を掴んだら稲城や府中などの既知産地を見たほうがいいかもしれません。
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