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おにやんま君の効果について考察。本物のオニヤンマはどのようにして虫に避けられているのか?

話題沸騰中のおにやんま君の効果とは?


昆虫界の王者オニヤンマを模倣し、自然に優しい虫よけとして話題沸騰中のおにやんま君。

効果の程を検証するため、この夏の間帽子につけて自然の仕事中に効果を体感してみました。

今回は数値化できないものの感じたメリットや、トンボの生態系での役割や昆虫的な視点からの効果の考察、優れたコミュニケーションツールとしての側面を紹介します。

効果の有無について

まずおにやんま君の効果についてです。帽子につけて夏を過ごした感想としては効果はあるように感じます。

類似商品のアカネちゃんはイマイチでしたが、おにやんま君は付けているとハチなどへの安心感が明確に感じられました。

pljbnature.com
(赤とんぼは赤に変化する理由など詳しく紹介しています。)

帽子につけることで耳元での不快な羽音を聞く機会は明らかに減ったような気がします。

印象としてはハチ類は明らかに来なくなるなという印象で、メマトイには効果が薄いように感じましたね。

蚊に関しては今年の夏は雨が異常に少なかったので結論は出せないというのが正直なところです。

昆虫に対する数値的な評価はとても難しいので、結果的にはプラシーボなのでは?という線は消せません。

しかし実体験として面白い話が有り、帽子につけているおにやんまくんがトンボ類に2度攻撃されたことがあります。

このことから昆虫類にとってこの色合いやフォルムには意味がしっかりあることが推測できます。

自然界のオニヤンマについて

オニヤンマは昆虫界の食物連鎖における最上位の昆虫です。

飛翔能力はもちろん、空中で停止するホバリング、後退飛行、宙返りなど何でもござれな性能をしています。

体長は10cm程で、theヤンマという黒に黄色のフォルムと、緑色の目がとても美しい昆虫です。

幼虫はやや流れのある環境で見られ、山地や谷戸的な環境で見かけることの多いトンボです。

よく知られるように肉食性の昆虫であり、昆虫類を幅広く捕食します。

その対象は蚊などの小型種から場合によってはスズメバチなどの大型昆虫も捕食します。

おにやんま君はこの生態系における食物連鎖を利用しているとされており、そこにはオニヤンマを避ける何かしらの理由があると推測できます。そこを考察していきます。

オニヤンマが虫に避けられる理由を考察


プラシーボの可能性は否めませんが、webやSNSで情報を調べるとおにやんま君に対するポジティブな反応はとてもたくさん見ることができます。

強い虫だから効果があると言うだけでは面白みがないので、要素を考えてみました。

考察ということであくまで1個人の意見としてこんなこともあるんじゃない?と参考程度に読んでください。

まずおにやんま君や類似商品のアカネちゃんはトンボの色と形をそのまま維持して商品化されています。

これを虫が持つ色の記憶保持能力昆虫が持つ配色環境の記憶の3つに分けて考えてみます。

昆虫の色による記憶保持(昆虫の花選択性の例)

訪花性の昆虫はとても多いですよね。

彼らは人間よりも多くの色を見ているものも有り、種によって見ることのできる色が違っていたりもします。

例えばアゲハチョウの事例ではツツジやヒガンバナなどの赤系のものに集まる傾向が強いとされています。

これはアゲハチョウが赤色を好んでいると思われがちですが、アゲハチョウは時期によって蜜を得られる花の色を選択的に選ぶことが明らかになっています。

要するに空中を飛翔し、赤色のエサと言うのをはっきり認識して近づいているんですね。

蝶の事例では飼育環境において色紙を用いた実験が面白く、色紙とともに砂糖水を与えることで蝶に特定の色への選択性をもたせられることが分かっています。

この研究では水色の色紙とともに与えれば水色を選ぶようになり、黄色で与えれば黄色を選ぶようになるという面白い話があります。

昆虫が世代を超えて色の記憶を保持できるのかどうかという点は不明ですが、現世代において色の学習を行えるという可能性は高いのではないかと思います。

オニヤンマのような色合いをした虫に襲われた虫は選択的に黄色や黒といった配色の昆虫を避けるようになる可能性があり、こうした仮説も昆虫が色を選択していると分かっているならば十分ありえます。

これは色に基づく経験になるので、例えば「おにやんま君はオニヤンマがいない地域では効果がない」や「おにやんま君を昆虫に近づけて効果がありません」と言っている検証動画などに刺さりそうな仮説になりそうです。

擬態的な視点(毛虫などの擬態の例)

一方で一部の昆虫は不思議と黄色や黒の警告色をしています。

上位捕食者のオニヤンマなどヤンマ科を始め、スズメバチなどのハチ類も多くが黄色と黒色をしています。

更に言うとそれらの色模様に擬態するスカシバガ科の蛾や、トラカミキリの仲間のようなカミキリもおり、この黄色と黒の色合いが経験的なものではなく、そもそも持っているだけで優位なものであると考える視点です。

ダーウィンの進化論に従えばキリンの首は上にある葉を食べようと首を伸ばした結果伸びたのではなく、首の短いものや長いものがいる多様性の中で、首の長いものが上の葉も食べることができて生存に有利という話でしたね。

結果生き延びることができたのは首が長いものになり、キリンの首は長くなったとされます。

黒と黄色の虫が多いのもそこに何かしらの優位な性能があるからです。

思うに毛虫の毒毛虫擬態の戦略と同様なのではないかと思います。

例えば毛虫はその多くが毒を持っていると捉えられますが実際にはドクガやカレハガ、イラガなどのほんの一握りしか毒を持ちません。

毒を持ってそうだという印象こそに価値があり、天敵からの捕食を避けるために効果があると推測することができます。
この場合毒持ちの個体が捕食されれば捕食者は酷い目にあうため、似た姿の生物を避けるようになります。

(上記の例として毒蝶のジャコウアゲハ擬態の2匹)
黄色と黒の虫がここまで自然に溢れているのはこの擬態戦略ではないかと言うのが2つ目の仮説です。

捕食性昆虫の色を真似ることで捕食される機会を減らすとともに、他の生物に黄色と黒の色合いを学習させることにも貢献しているのではないでしょうか。

昆虫の環境記憶保持能力?(蝶の飛翔記憶の例)

そして3つめはそれらの経験的な記憶は少なからず引き継がれているのではないかという視点です。

自然のエリアは膨大な規模をしており、現世代だけの経験ではどう考えても黄色と黒への色に対する警戒は獲得できないと考えるからです。

経験的にトンボやハチなどの天敵がいる環境を記憶し引き継いでいるのではないでしょうか? 

昆虫の記憶に関しては面白い研究が有ります。昔読んだのでちょっと曖昧なのですが、ギフチョウという貴重なアゲハチョウの生態行動を数年間に渡って記録するというものです。

ギフチョウは尾根などの丘的な環境が好きな蝶で、その研究ではギフチョウがよく使う丘がありました。

彼らの飛翔ルートは大方決まっており、どの方角から来てどちらに抜けていくかも決まっています。

このよく使われる場所に工事が入り環境に大きな改変が入った結果どうなったかと言うと、ギフチョウは2年間は同じルートで飛翔を続け、その後別ルートを開拓したというものです。

このことが示しているのはギフチョウには遺伝的に受け継がれる環境的な条件の情報があり、それが2年の間受け継がれたということです。

もしも昆虫全般にこのような環境条件の伝達があるならば、危険情報としての色覚なども遺伝的に受け継がれていてもおかしくないのではと思いますね。

環境保持能力が有り、ヤンマの出現エリアが記録されるならばそれらを避ける行動を取ることにも納得がいきます。

おにやんまくんはなぜ優れているか?

おにやんまくんはなぜここまで話題になったのでしょうか?

実際の所この商品は昆虫にさほど興味のない方へのウケが凄まじく、老若男女問わず付けているだけで関心を持たれます。

持続可能な時代と農薬


その1つがオニヤンマという知名度の高い昆虫の姿を再現していることでしょう。

ご存知の通りどんなに昆虫に興味のない方でもオニヤンマを知らない人には出会ったことが有りません。

おにやんまくんはそのクオリティが非常に高く、遠目から見ると本当にオニヤンマに見えます。

前述の通り自然界のトンボが間違って攻撃してきたくらいですからね。

そして時代的にも今は農薬を減らして持続可能性に目を向けていきましょうというのが流れです。

有名な話ですがトンボ類を含む水生昆虫というのはネオニコチノイド系農薬の出現により大幅に数を減らし続けています。

農薬というのは散布すれば風に乗り飛ぶだけではなく、雨とともに流れ出ていきます。

開発などでゴルフ場ができると芝の維持のために農薬が使われ、下流域の水生態系に甚大な影響を与えることが沖縄のリゾート開発の際に話題に上がっていましたね。

このことからトンボは農薬被害の代表的な昆虫であり、そのトンボ類が農薬などの薬剤を利用せずに使える虫よけとして出現したのが印象強いのではないかと思います。

抜群のコミュニケーションツール

虫除け効果を持ちつつ一般の方へ生態系などの理解を普及できる素晴らしいツールであると認識しています。

付けているだけで幅広い方たちとのコミュニケーションのきっかけになります。

そこからトンボを絡めた生態系の話などに発展できるため、人々への生態系への関心の入り口として非常に便利です。

遠目からでも「話題のあれじゃない?」「効果あるんですか?」と聞かれることが多く、通常のコミュニケーションにおける天気の会話のような導入としてとても使えます。

とりあえず効果の有無は別として話題の商品を利用してみた感覚で利用できます。

特に子どもたちにおいてはアクセサリー感覚で付けられ、オニヤンマの凄さを語ってくれるような子も多く、ニコリとしてしまいましたね。

まとめ

おにやんまくんは持続可能性が求められる時代において、トンボという農薬の被害に大きく合ってきた虫が農薬を使わない虫よけとなったことから大きな話題を産んだのだと思います。

効果は数値化されていませんが、その分答えがないために人々の関心がとても刺激され、昆虫に興味のない人にも驚くほどに知られています。

その見えない効果の裏にはいくつかの要素があり、私の知識内の推測では3つ程の仮説を立てることができました。しかしあくまで私の推測でしかないので参考程度に読んでおいてください。

興味のある方は1000円ほどと手軽なので試してみるといいと思います。

タイプには紐型とクリップ型がありますが、断然クリップのほうが使用範囲が広いためオススメです。

話題性のある商品が好きで、昆虫に興味のある人ならば万人におすすめできますよ。

夏付近になると入荷待ちですぐ手元に来なくなります。興味のある方は備えておきましょう。

コミュニケーションツールとしてとても有能であり、つけていると色んな人に効能について聞かれます。
科学的根拠はないからこそ楽しい部分があると思います。虫好きならばキーホルダー的な感覚でつけるのもオススメです。

参考文献 アゲハが見ている「色」の世界 (木下充代)
広島市絵下山公園におけるギフチョウの保全と飛翔行動の変化:巨大建造物出現に対する行動パターン(広島大学総合博物館)