奇妙なハチの情報収集がしたい
ハチの仲間と言えばあまりマニアも少なく種の同定にも困ることが多いカテゴリーではないでしょうか。

私もハナバチ類など気にはなるものの手は付けておらず、精々セイボウの仲間を見つけたら取るぐらいのものです。
しかし蜂の仲間と言えば産卵管が長いウマノオバチはミーハー虫屋的にはやはり刺さります。
ウマノオバチとの遭遇自体は過去にしていますが、偶然遭遇できる虫という感覚があり、実は狙って採集してみたことというのがありません。
そこで今回は初夏の個人的な代表種ウマノオバチを久々に観察してみようと思い立ちました。
ウマノオバチを求めて
ウマノオバチは非常に奇妙なハチの仲間です。

産卵管の長さがずば抜けて長いハチということでハチの仲間の中でも虫屋的には名前を見る機会の多い虫なのではないかなと思います。
この虫の難しさは時期にあるように思います。春の寒暖差の影響を受けて発生時期が多少前後し、個体数の多くないエリアでは発見できる期間は2週間程度しかないように思います。
基本的には栗林や栗林の放棄されたような場所で多産すると言われていますが、栗林が少なくなっている環境においてはクヌギやコナラなどのカミキリムシに加害された痕や広葉樹のやはりカミキリムシ系が羽脱した後などでの観察例があります。

いずれにしても栗林以外では多くの個体数を見ることが難しいという背景がありますね。神奈川では絶滅危惧種にも指定されており、探す期間の短さやそもそも探す人の少なさなどもあり情報があまりない虫です。
探している人自体がそもそも少ないように思いますが、やはり見た目が面白くいい虫であるので久々に採集してその姿を観察したいですね。
早々の時期にいるのか?ウマノオバチ
過去の記録を見ていくとウマノオバチの平野部での出現はGW程度の時期でも捕まえられているようです。

早いとGWで遅いと15日前後という感じですかね。
いずれにしても個体数は多くは無く、年に1匹偶然遭遇出来ればいいかなと言えるぐらいやや渋めな昆虫です。
GWといえばクロホシタマムシも遭遇する時期であり、ナラ枯れの猛威が過ぎ去った関東においては部分的に枝が枯れた生存木などでの発見例が多いように思います。

クロホシタマムシとウマノオバチは木を選べば一緒に見つけたりすることもできますので、クロホシ期待でついでにウマノオバチ。そしてウマノオバチのポイントの開拓を兼ねて暖かい風のない午前中に出動しました。
去年は全く出会えなかったので(探していないのもあるか)今年は久々に見たいものです。
さてウマノオバチですが、そのライフサイクルは比較的最近になって明らかとなった虫です。

ウマノオバチの成虫は初夏に蛹となっているミヤマカミキリに寄生することが明らかとなっており、ウマノオバチの出現にはミヤマカミキリの存在が不可欠と言えます。
個人的に意識していることの範疇ですが、ウマノオバチを探そうと躍起になるよりもミヤマカミキリの痕跡を見つけていい木で待ち伏せする方が成果が上がりやすいように思いますね。
発見のほぼすべてが午前中で(14/15とかなり高い)日当たりのよい風のないタイミングであることは何かしら関係があると考えてよいのではないかなと思います。(午前に飛来した木で午後も観察を続けました。)

風があっても風のないタイミングで普通に飛来してきます。
ということで個人的なセオリーとなるGW程度の暖かい午前中にミヤマカミキリの痕跡がある雑木林環境へ足を運びます。
風がないことを祈りましょう。
絶好のコンディション、長い尾を探せ!
さてミヤマカミキリの羽脱孔ですが、ナラ枯れで衰弱したコナラなどで近年は頻繁に見ることができます。

ミヤマカミキリは生木食いのカミキリであるため、生きたブナ科の樹木を加害しますが、ナラ枯れなどで生存してやや樹勢が弱っているような木に羽脱孔が多いように思います。
なので樹液痕があるような木や胴吹きなどでやや樹勢が弱っているような木を中心に見ていきます。
ミヤマカミキリの羽脱孔についてはそれがそうなのかは分かりませんが、生木の太い部分に親指よりも太い穴が開いているものがそうなのではないかなと推測しています。

それを目安にしていきますが、樹液を始めとしたキクイムシ由来の穴や、枯れ木部分の何かしらの虫の穴なども気にかけているように思いますのであくまで指標程度に考えていただき、枯損部位やカミキリっぽい穴を探していくのが良いと思います。
探し方についてはウマノオバチについては幹や樹冠を見上げて飛来するウマノオバチを目視するというのが有効です。
ウマノオバチのメスには10cm以上の非常に長い産卵管がありますので、飛んでいるときに垂れ下がる糸状のものが非常に目立ちます。
蜂自体も飴色をしており分かりやすいので、色と産卵管の2か所をヒントに飛来するか飛んでいる個体を見つけましょう。
飛来して産卵場所を気にかけているような場面や幹回りを飛び回る場面で遭遇することが多いように思いますね。

時期の条件が割とシビアであると考えられ、標高や環境に応じて、また、季節の寒暖差により発生時期が多少前後します。
パッと出てパッと消えるような虫なのではないかなと思います。
と自分なりに情報をかみ砕いてみましたが栗林を除くとこの虫の出現はとても稀なものであり、狙って出会えるのか気になるところです。
とりあえずミヤマカミキリの痕らしきものがある雑木林にて部分的に枯損部のあるような木を見ていきます。

この日は気温も高くこれならいれば来てくれそうな雰囲気です。
さて、立ち枯れのクロホシタマムシ採集よろしく樹冠や幹を見上げて垂れ下がる長い尾を探していきましょう。
時期的にはやや早いような気もしますが、気温も27℃くらいありますので若干の遅れはカバーしてくれるように思います。

木の感覚としては暗い場所ではなく、日差しが差し込むようなものの方が良いような実感があります。
日当たりは木漏れ日が差す程度の幹の方が過去の勝率でいうと高いですかね。
生木採集なので暇だと思ったらスウィーピングなどに逃げられるのもいいですね。

なんてことを考えていましたが良さそうな条件の木を見上げると早々に上空7m程度の場所に飛来している中型のハチの姿が見えます。
お尻には垂れ下がるようなひも状のものがくっついていますのでこの時点でウマノオバチが確定するわけなのですが、胴吹きかつ枝が少し混んでいる場所なので60㎝網では分が悪いようです。
ウマノオバチは目線から樹幹まで広く産卵場所の探索をする傾向があるため、放っておくとどんどん上昇して逃げてしまいます。
角度を変えて何とか捕まえられるか試しつつ見失わないように気を付けます。
お気に入りの場所や気に入る場所を見つけると張り付いてくれるのですが、どうやら飛び回る模様です。
警戒心自体はあまり強くないので網を伸ばして幹から離れる瞬間に上手くキャッチ!
網を手繰り寄せればその中には!

ウマノオバチですね。
久々に見ると産卵管がもっと長かったような気がしますが、思い出補正でしょうか。苦い柑橘系のような香りを出すのも久々の感覚です。
目的のウマノオバチは以外にもあっさりと見つかってしまいました。
この産卵管は他の虫では絶対に見られません。
産卵管は1本に見えるようで実は途中から?か3本に分かれています。ミヤマカミキリは幼虫が道を掘り、蛹化後にまた戻るらしく道が見つけられれば蛹までアクセスしやすいのかもしれませんね。
ウマノオバチはスズメバチでいう毒針の部分がこのように長いものとなっています。

しかし長く攻撃する器官ではないため、手で持ったりしても刺されることはありません。柑橘系の苦い香りはしますが持っても大丈夫です。
一応口は中型カミキリよろしく皮膚に感触を覚える程度にはものを噛めるので気を付けましょう。
いやはやあっさりと見つかってしまいましたね。
一応ウマノオバチは神奈川県の絶滅危惧に指定されている希少な虫ではありますが、恐らく寄生先がミヤマカミキリであり普通種であることからも広く分布はしているものと思われます。

一方でこの虫は食事も不明であり、恐らく生存期間も短いと考えられます。
持ち帰り万能餌のプロゼリーを与えても反応は全く示しません。水分目当てに舐めたりするものですが、2~3日置いても食べたり飲んだりを一切しません。
口はあるけど蛾の様に食事をしないのでしょうか?ますます不思議な生き物ですね。

ということでせっかくですから待機して風の様子や日照の具合を見ながら追加個体を探してみることにしましょう。
栗林の例ではウマノオバチは空いた羽脱孔の周辺で確認されることが多いなどやはり枯れ木及び生木の空いた穴に注視するのがよさそうです。
私は過去15例ぐらいウマノオバチを見ていますが、コナラの例ではミヤマカミキリの穴は一つの参考にはなりますが、キクイムシ由来の穴やコルク状になったボクトウガ由来の痕などにも飛来しているのを確認しています。

つまり個人的な仮説としてはカミキリムシの幼虫が出す何かしらの成分を探知しているのではなく木に穴が開いたことで流れ出る植物由来の香りを探知しているのではないかもしくはそうした穿孔性の虫が入ることで入る菌類などを探知しているのではないかなと思っています。
そのように考えるとコナラに空いた穴の類に来ることや、半分枯れた木にも来ること、生木の腐朽した部分を飛翔することなども個人的に納得がいくように思います。
そんなことを考えながらコナラの幹を見上げていきましょう。
ヒメウマノオバチも出現
樹冠を眺めているとハチというかハエなのかハチなのかよく分からない虫なども意外と飛んでいることが分かります。

上空を見上げていると色のついている虫というのは思った以上に目立ち、視界にオレンジ色のハチの姿が見えました。
生木ではなく腐朽した部分に止まりました。上空7mぐらいのところです。
網を使って叩くとハチがネットの中に入りました。ウマノオバチのオスかな?なんて思っていましたが、網の中にいるハチには短い産卵管があるようです。
こいつはヒメウマノオバチですね。

ウマノオバチより少し小さく産卵管は非常に短いそっくりさんです。
こいつはアオスジカミキリに寄生することからネムノキなどに来るものと思われますが、コナラを始めヤマボウシなど枯損木に来ていることがあります。
アオスジ以外にも寄生先がいるのでしょうかね。
ウマノオバチとヒメウマノオバチが同じ場所で取れてしまうなんて、これで喜べるのはマニアだけなように思いますが、お得ですね。

2ショットを取っておきましょう。どちらも狙うとなかなか取れない虫ですからね。過去単品で飛翔しているのを目にしたことなどはありますが、こうして捕まえるのは初めてです。
やはり健全木でナラ枯れに打ち勝ったものの部分的に枯れているような木というのは色々な虫が来て面白いですね。
さて、ここから気になるのはウマノオバチには好む木やポイントがあるのかというところです。

ゼフや一部のチョウのテリハリ、アオマダラタマムシのいい場所にいる個体を取るとそこを埋めるように次の個体が来るなど昆虫には明らかにその場所が他の場所よりも優れていると感じられる場所があるように思います。
ウマノオバチも寄生性で好む環境はあるように思いますので、洞から掻き出してヒラタを出した穴に別のヒラタが来るような何かがあるかもしれません。
他の木を見ながら色々考察しつつ木を見ていきます。ウマノオバチは一般の虫に興味が無い人も気になるようで、尋ねられて蜂を見せ、面白い生体について述べると興味関心を持つ方も多いです。

するとお昼の間際、一時的に曇っていた晴れ間のタイミングでウマノオバチの尾が垂れ下がって飛んでいるのが見えました。
同じ場所に来たー!と興奮しつつネットインしようとしますがやはり葉の密度が高く難しいです。
ウマノオバチは網を警戒し、別の木へと飛び去ります。それを網を伸ばしつつ追いかけ何とかキャッチ!
2匹目のウマノオバチを得ることができました。

やはりこのハチは時期をしっかりあてることができれば意外といるのかもしれません。
これまでまともに探したことがありませんでしたが、もしかすると彼らにも好んで飛来する場所というのがあるのかもしれませんね。
ウマノオバチ採集のポイントとは?
個人的に意識しているポイントはこのようなことです。

まずは平野部ではGW中から後程度の僅かな期間ですね。
そして午前中の晴れた風のない日です。

幹には半日影でも日が差すような場所の方が見つかるように思います。
加えてミヤマカミキリを始め木に穴が開いていたり、部分的に腐朽していたり、ナラ枯れの生存木であったりするような木が好ましいようです。

ルッキングにおいては生木の部分というよりは穴の周辺や枯損部の周辺を見たり樹冠にかけて見上げるようにすることでシルエットを捉えやすいかなと思いますね。
ウマノオバチは、幹を探索します。いい場所を求めてついては飛んでを繰り返しているように思われます。いれば見つけやすいと思います。

この条件だけだと広いように思いますが、きっと本種は広くいるのではないかなと思います。
新しく見つかる場所が増えたりすると個人的には嬉しいですね。いい虫ですが中々見つける機会や探す優先度も高くない虫ですので、ぜひ皆様も探してみて飛び回る優雅な姿を見て欲しいものです。
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捕獲には長竿網が必要です。
奇妙な虫シリーズ
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