ふとニホンリスに遭遇

ニホンリスを知っていますか?ペットのシマリスや外来種のタイワンリス。身近で目にするリスはおおよそ外国由来のものが多いのですが、日本にも固有の二ホンリスがいます。
が、このニホンリス。自然の中で活動していてもなかなかに遭遇することが難しく、遭遇しても小型で俊敏なためにあっという間に消えてしまうことが殆どです。
私も自然で活動してきて目視したのが通算2回ほどでした。
しかし今回晩秋のクルミを狙った見たところ1か月で日では10日以上。目撃回数では一気に20回近くと大幅に数を伸ばすことができました。
今回は再現性は不明ですが二ホンリスを探すうえで注目となる植生や時期、餌資源としてのクルミとそれを通じた生態系の面白さなどについて紹介しつつ、二ホンリスにたくさん会えてうきうきしている様子をお届けします。(写真には著作権情報が埋め込んであります)
ニホンリスとは
二ホンリスはげっ歯目リス科の哺乳動物の1種です。

大きさは思ったより大きくハト位の大きさがあり、しっぽは大きく長め、タイワンリスのような毛の短さとは異なる日本らしいシャープなリスという印象です。
げっ歯類はムササビやネズミのように夜間の行動を好むものとリスのように昼間行動するものがいます。
二ホンリスは昼間、うっそうとした木々の合間を縫うようにして移動し、餌資源となる植物の種などを利用しているようです。

動きは非常に素早く機敏であり、樹上で生活するために木登り、木から降りるのも得意としています。
基本的にはあまり木から降りず、樹上で生活しているようです。天敵となる蛇や猛禽類を避けるためではないかなと思います。

生息環境は目にしない割には意外と身近であり、都市部にはいませんが山地に続いた環境であると規模が小さめな環境でもいるようです。
山地の麓にある町中の庭木で目にしたことがあり驚いたものです。
冬眠する印象が強いかもしれませんが、実際には二ホンリスは冬眠はせず冬季も活動しています。その際には冬以前にため込んだ食糧を活用して過ごすため、木の実などを貯蓄しておく生態があります。
自然下で出会えるとかなりかわいいし嬉しいです。なかなか出会うことができません。
ニホンリスはクルミが好き?

二ホンリスについてですが、今年の10月以前までは一度も遭遇したことが無かったのに10月から11月の中旬にかけて同じ場所で顔を合わせた回数では20回を超える程になりました。
たまたまリスの存在を見かけた場所で、そこに度々足を運んだらリスも日が違ってもいたというだけの話なので、恐らく同一個体と何度も遭遇しているだけであると思われます。

しかしながら、私が今期10月から遭遇したところが4か所あり、リスの縄張りは♂で20haもあるという話もありますからその4地点はこの範囲に収まるので同一個体である可能性は考えられます。
そこは置いておいて、共通しているのが必ずオニグルミが近くにあるという事なんですね。

これまで何年もリスを見ていなかったのにふらりと遭遇したリスが皆オニグルミの近くにいるとなれば何かしら疑いたくもなります。
リスがクルミを好きという話はよく目にしますが本当なのでしょうか?
これについて調べてみると盛岡市のリスの食性を調べたものとして「盛岡市の都市近郊林における二ホンリスの食性」という研究の中でリスの食性について述べられた部分が見つかりました。

これによるとリスは年間を通じてクルミの堅果(いわゆるクルミの実)を利用しており、その利用は年間であるものの特に8~11月の時期に多いことが述べられています。
これに加えて9月以降はほとんどの採食をクルミ類を用いていることも述べられています。ちょうど私が観察している時期の10月や11月にも合致する結果となっており、出現場所もクルミの付近であると整合性が取れます。

もうひとつ八王子市にある多摩森林総合研究所におけるリスの食性分布を調べた「二ホンリスの植生選択」においてはリスが使用している植生タイプが述べられており、その中で落葉樹林の使用率が高くその落葉樹林の中でもオニグルミ植生を好むとの話が見られました。
これらのことから私がクルミの木の周りで遭遇したのは偶然ではなく、秋においてはクルミの周りで出現数が増加する可能性はあると言えそうに思えます。
リスはクルミが好きだと主観ではなく述べることが出来そうです。
ニホンリスとクルミ、動物と植物が自然を繋ぐ
ニホンリスがクルミが好きなことが分かりましたね。

ここでは視点を植物側に移してリスを利用した種子散布の戦略に注目してみましょう。
リスに限りませんが種子を利用する生き物というのはその植物の種子散布に貢献していると言われます。
例えばヤマガラはエゴノキ科が大好きでこの実には時期になるとヤマガラばかりが集まります。


生き物の中には種を貯蓄するものがあり、冬に備えて種子を蓄えたはいいものの隠し場所が多すぎて忘れてしまったりする場合も多いのです。
リスにおいても同様なことが起きていると考えられます。
オニグルミは重力散布や水散布といった種子の散布を行うことが知られています。
前述のトピックで明らかなようにリスはオニグルミがとても大好きであり、その堅果の利用は一年中であるという話がありました。

通常オニグルミの果実は7月ころから目につき、9月頃から落ち始めます。冬前には果実は全て落ちてしまうため、これでは年中オニグルミの堅果を食べることと矛盾してしまいます。
オニグルミは非常に硬い殻に覆われており、内部の実はこの殻を割らない限り腐ったりもせず利用することができます。
つまり乾パンのように保存食としての適性が高いんですね。
リスは経験的にそれを知っていると考えられ、冬場に限らず保存食としてこれらのオニグルミを隠しています。

つまりオニグルミに来るリスは食事に来ているだけでなく未来の食事を隠すためにも来ていると考えられます。
実際私は運よくクルミを持ち運ぶリスの姿の撮影に成功したほか、偶然目の前に来たリスが木に絡みついたツタの隙間から乾燥したクルミを取り出すところを撮影しています。




オニグルミの隠し場所やそのサンプル数が分かればオニグルミはリスを種子散布の手段として利用しているとも捉えられそうに思います。
これについて面白い記事があり、平成7年度の森林総合研究所の研究成果発表の中で「森を作る動物たち」というものがあります。
これは調査内容が面白く、オニグルミに発信機を付けて運搬された場所やその後を調査した研究なのですが、これによると104個のオニグルミはリスによって99個が運ばれ内訳として枝(樹上)が28,落ち葉が36(地上),すぐ食べられたものが35だったそうです。

同様の研究があり、出店は不明ですがwebにてアクセス可能な「森の動物と森の再生」という資料の中でクルミに発信機を付けて156個のクルミを追跡したものがあります。こちらでは樹上が44、地上が47、すぐ食べられたものが65個だそうです。
こちらでは11個のオニグルミが隠された先での発芽できる可能性があったことが述べられています。
つまり割合としては低いのですがリスが食べ残したことでオニグルミが種子を本来の重力散布よりも遠くに運搬できる機会を得たと考えることができます。

種子運搬については諸説ありますが木を中心に20m以内に隠される事例が多いようですが、「森の動物と森の再生」では100m、「森を作る野生動物たち」では62m、の事例が述べられており、種子がオニグルミの現在地よりも高い標高に移動しているなど重力散布のみでは得られないメリットがあるようです。
偶発的要素が強いとはいえオニグルミもリスなどの動物に食べられるだけではなく、新天地を目指すためにリスをうまく使っているのかもしれません。硬い殻を突破して利用できる生き物は多くありませんので重要なパートナーなのかもしれませんね。
秋季から冬季にかけてリスがオニグルミを非常に好んで利用することからもその影響は果実の1%程度が残されると仮定したとしても全国規模で見れば非常に有益な散布者と言えるかもしれませんね。

リスはその植生においては下草が多い茂っている環境を好むという話があります。ゆえに今期の私の観察では地上にクルミを埋めている場面には遭遇できませんでした。
特にうっそうとした環境下では食事の音や警戒の声は聞こえてもクルミを隠しているのか、地面に降りて埋めているのかなどの事情は分かりませんが、研究下では樹上と地上は半々から4:6程度が結果として出ているのでそれくらいに収束すると思われます。
種子散布にもいろいろな形があり面白いですね。
ニホンリスに遭遇するのは難しいためコツを押さえよう
ニホンリスとの遭遇ですがこれは本当に難しいと思います。

ニホンリスはとにかく警戒心が高く、姿を見つけてもあっという間に移動して消えてしまいます。
遭遇するには偶然出会うしかないとばかり思っていました。実際偶然の遭遇というのがとても多いかと思います。
しかし前述したようにニホンリスは餌資源の多くをクルミ類に依存していることが分かりましたね。研究によってはクルミ類の周辺に巣を作ると述べているものもあります。

オニグルミが結実する時期以降は能動的に探すのではなく待ち伏せ型でニホンリスを待ち構えることが効果的な可能性があります。これに切り替えてからは遭遇率が大きく上がりました。
そのためにはある程度広い森の環境が必要です。
一説によればニホンリスは20ha以下の森林ではその出現が難しいと述べられています。
一方でリスの出現は分断された環境でも数haの規模感があれば出現が認められたとしているものもあります。

丁度記事中で紹介した盛岡市の例では5h程度で生息しているとの話がありましたね。
個人的な推測としては生息エリアの隠れ家の密度とオニグルミの本数が生息に大きな影響を与えているのではないかなと考えています。
特に一年中クルミを食べるリスにおいてはそれだけの数を確保できるクルミがちゃんとあることはとても大事です。
森林面積が少なくてもリスが見られる場合というのはオニグルミの割合が多い環境なのではないかなと思います。
リスを探す場合にはオニグルミをまず探し、その森の面積がいわゆる♂の行動範囲である20ha以上の規模感があるかどうかを押さえておくのがよさそうです。
しかしそのようにエリアを絞っても遭遇するのは大変です。基本的には森林規模とオニグルミを見つけたら張り込んでニホンリスの情報を探るしかなさそうです。
ニホンリスの出現を探るサイン
ここからはニホンリスの存在を実際に観察した事例から紹介します。

また、ニホンリスが見せる行動についても紹介していきます。
まず最も分かりやすいサインはクルミを齧っている音が聞こえることです。
ニホンリスはクルミ類を樹上で齧ることが多いようで、その際に特有の摩擦音のような音がします。
ギッギッギやグイッグイッグイのような音で表現できますが、鳥の声とは大きく異なる変な音を出します。

観察例ではクルミの木を中心に30~40m以内の範囲で食事をしていることが多いように感じられ、基本的に枝や葉が込み入った場所で食べているようです。
音が聞こえておおよその位置が分かっても姿は見えないということがよくあります。
姿勢は尾を頭部に持ち上げて食べるようです。枝のコブみたいな形になっています。

クルミを割るまでは個体差がありそうで、私が見ていた個体は10~15分位かかっていました。
音については先ほどの摩擦音がずっと聞こえるのですが、クルミが割れた時にパキッと音がします。これをサインに食事にありついた判断をします。
場合によっては落ちたクルミで場所の辺りが付けられます。
食事を終えたニホンリスはその場で3~10分ほど待機するように思います。

視界が悪い場所にいるので移動してしまったか?と思うのですが、音のするあたりを音が消えてからじっと見続けていると休憩の後移動します。
その後、隠していたクルミもしくは地面のクルミを拾ってというのを数度繰り返し、動かないのか何なのか消息不明になります。昼寝でもしているのかもしれません。
このようにニホンリスはオニグルミの場所に既に潜んでおり、人を始めとした天敵にばれないように行動している可能性が高いです。

警戒心が高い動物であるため、オニグルミを訪れて数分待機していると急に走り抜けていくこともありました。
こうした数々の事例からもニホンリスがオニグルミを高頻度で使い、クルミに依存している傾向が読み取れますので秋の季節に広い森やそれに隣接しているエリアのオニグルミの木で待機してみると出会えるかもしれません。
時間については午前の早めな時間が多く、9~10時過ぎ位によくいるようです。

9時の時点ですでに行動しているため、恐らく日の出直後から何時間かを目安にして行動しているのではないかなと思われますね。
参考文献の以下の研究は非常に有用であるため、日本リスに遭遇したい方は読むことをお勧めします。特に田村氏のものはリスに出会いたいならば読むのはマストです。
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参考文献
西千秋、只野由佳、出口善隆、青井俊樹 岩手大学農学部演習林報告 盛岡市都市近郊林における二ホンリスの食性 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030873230.pdf 2025/11/21
田村典子 森林総合研究所多摩森林科学園 日本リスの植生選択 https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/48/2/48_KJ00001774830/_pdf/-char/ja 2025/11/21
林典子 多摩森林科学園 森を作る野生動物https://www.ffpri.go.jp/pubs/kouenyoushi/documents/h7.pdf
田村典子 森林総合研究所多摩森林科学園 ニホンリスによるオニグルミ種子の貯食及び分散 https://www.jstage.jst.go.jp/article/psj1985/13/2/13_2_129/_pdf/-char/ja 2025/11/21
長野県 森の動物と森の再生
https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/seika/gijyutsu/documents/092-4.pdf 1996/ 2025/11/25