ヒラタクワガタの出現時期への理解を深める

ヒラタクワガタは東京神奈川辺りではあまり多くは無いクワガタです。
神奈川では絶滅危惧種2B類に記載されており、特にまとまって発見されることも多くありません。
しかしヒラタに憧れる方は多いです。あの厚みと艶消しの黒、大あごの迫力とサイズ感は他のクワガタでは味わえない魅力があります。
今回はヒラタクワガタの出現と発生時期について考察し、一般的に5月や9月に見られるとされる要因を考察していこうと思います。ヒラタに挑む方にぜひ知ってほしい情報となります。
ヒラタクワガタは5月に多い?ヒラタの発生について
ヒラタクワガタといえば成虫で冬を越すことがよく知られていますよね。

越冬性のクワガタは身近なコクワガタを始めよく目にします。
ノコギリやミヤマのような種類ではその出現は6~7月程にまとまりますが、ヒラタやコクワはそれよりも早い5~6月上旬ごろに出現が始まり、9月頃まで続くのが通説とされています。
実際webやSNSなどでヒラタの出現の情報を調べると早いと4月の後半から、5月頃には賑わいを見せ、6月ぐらいまで活発な報告があります。

これらの時期には確かに越冬明けの個体が見つかることがあり、私自身相模川にてふせつや顎に欠損の見られる個体を捕まえたことがあります。
しかし越冬個体だけが出るのか気になりますよね。
ヒラタの新成虫がどのように出るのかが分かれば、より効果的に探すことができます。
これについてはヒラタの生活史を述べた研究である「山梨県の低地で見られるクワガタムシ科2種(ヒラタクワガタ及びノコギリクワガタ)の飼育ー生活史の特徴と生活戦略の考察ー(大澤2004)」の情報が参考になります。

一般的にヒラタは越冬明けの5月と、2次発生と言われる晩夏から9月頃に出現すると言われており、この時期に狙う方が多いかと思います。
5月のヒラタですが、よく知られる通り越冬したヒラタが出現しているのは分かりますよね。これ以外に新成虫が出るのでしょうか?
大澤(2004)によればヒラタの新成虫の出現は、産卵時期により左右される可能性が示されています。
そして後期の採卵(8月)の例では新成虫の出現は5月ではなく7月中にまとまっています。

サンプル数は多くは無く、山梨の事例なので変化は当然あるかと思います。
このケースにおいてはヒラタがいると言われる5月は、新成虫になるための蛹化のタイミングであるようで、この例を参考にすると5月の早期採集は越冬個体をメインに捕まえる時期と捉えられます。

ヒラタの新成虫の出現について8月採卵の個体については「脱出は7月上旬~中旬となった。」(大澤2004)との記述があります。
ここからもヒラタクワガタの出現は5月頃の越冬成虫、7月頃の新成虫、そして9月頃?の発生?(この時点では不明、後述)が知られるようになり、ノコギリやミヤマと違ってだらだらと継続的に見つけられる可能性があります。
しかしこの記事を見ている方の中には、いやいや私は5~6月にも新成虫をとっているよ?との意見もあるかと思います。

これについてはその意見も正しく、5~6月には越冬明け+新成虫が出現します。矛盾を感じるかもしれませんが、面白い部分があるのです。
大澤(2004)において
「6月に採った卵からの幼虫は、その年の内に蛹化、羽化するが、その年の晩夏に脱出するものと、翌年
まで蛹室に留まり、翌年初夏に脱出するものの両方が見られた(大津、未発表)」
との記述があります。

つまり早期産卵のケースを含めると、初夏の5~6月のヒラタクワガタに越冬明けの個体と、前年に成虫となったが前年中には出ず、翌年の5~6月に活動を開始する新成虫がいるわけです。
そういう訳でヒラタは5~6月に出現が集中するので、その時期がよく取れるとされるのですね。
ヒラタクワガタは9月頃に出る?
ヒラタの情報を調べると、晩夏や9~10月頃にも見つけられるという話を目にしますよね。

いわゆる2次発生の時期に当たるこの時期の個体ですが、ミヤマクワガタやノコギリなどでも同様の行動が見られます。
この原理はノコとミヤマにおいては不明ですが、ヒラタの場合には説明できそうです。
ヒラタの場合の晩夏出現では、やはり採卵の時期により出現が変わる可能性があるようです。

先ほどの引用部分である「晩夏に脱出するもの」の個体がこれに該当すると考えられます。6月に採卵された例では、当年中の晩夏に羽化する個体がいることが述べられており、これが9月などの発生個体に当たるのかと思われますね。
通常のイメージとしては幼虫期間が長い方が良いと考えられていますが、ヒラタにおいては初期の2か月程度で大きく成長し、その後横ばいになる傾向があるそうで、例え期間が短くとも大型個体が出る可能性はあると言えます。

例としてこの研究では最大となる62mmのヒラタが2か月で急激に体重を増やしているグラフが見られます。
つまり晩夏に出る個体は、越冬個体や早期出現新成虫の産卵に由来するもので、ヒラタの急成長がなせる生態と言えそうですね。
(もちろんこれに加え越冬個体、当年新成虫の生き残りも見つかるので、9月はチャンスが多いと言われるのも納得がいく)
通説として語られる晩夏以降に出る個体というのも確実にいるようです。これを狙うならば9月頃にヒラタを探し始めるというのも理にかなっていると考えられます。

今回の2つのトピックの情報をまとめると5~6月は越冬個体と新成虫(前年羽化の個体)、7月頃に新成虫(晩夏に採卵した個体)9月頃に当年羽化の新成虫という流れがあることになります。
これを基に考えると中々有意義なヒラタクワガタ採集が楽しめそうですね。この文献は非常に面白いので、ヒラタ採集に興味のある方はぜひ元の論文も読んでみてください。
しかしヒラタにおいて早期と後期で翌年の発生時期が変わる可能性があるということは他のクワガタにおいてもありそうですね。2次発生周りのトピックは非常に面白いものです。
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カブクワ採集を行うならば0から採集に関する疑問の大凡を解決できるこの記事がおすすめです。
ヒラタを狙うならばまた別の戦略を取る必要があります。
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ヒラタを探すならば本記事の通り5~6月の探索が重要となりそうです。
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その他不発ですが今季は早い時期に訪れるつもりのヒラタがいそうな場所の雰囲気などを紹介。
引用文献
大澤正嗣 山梨県森林総合研究所研究報告NO.24 山梨県の低地で見られるクワガタムシ科2種(ヒラタクワガタ及びノコギリクワガタ)の飼育ー生活史の特徴と生活戦略の考察ー,2004,12p
参考文献
大澤正嗣 山梨県森林総合研究所研究報告NO.24 山梨県の低地で見られるクワガタムシ科2種(ヒラタクワガタ及びノコギリクワガタ)の飼育ー生活史の特徴と生活戦略の考察ー,2004,2025,2/11
https://www.pref.yamanashi.jp/documents/67331/byfri_2005_24_9_14_oosawa.pdf