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冬を越すスズメバチは女王だけではない!? 寄生生物ネジレバネに取り付かれると、働きバチが冬を越す!

冬や早春にスズメバチ?

真冬の2月に出てきたスズメバチ。そんな馬鹿なと思いきや?

スズメバチは一般的に春~秋まで活動をして新女王バチのみが越冬をし、翌春以降また巣を作り始めるとされています。

今回スズメバチの巣を発見し容器に入れて保管していると、なんと働きバチと思われる個体が出現しました。

ハチ類は越冬場所として同じ巣を使用する例はほとんどないはずです。

そこで気が付いたのが彼らのお尻に見つけた丸い模様。スズメバチネジレバネの寄生を示すサインです。

このハチは寄生されていたのです。今回は寄生されると寿命が延びるケースもある奇妙な生き物、スズメバチネジレバネとスズメバチを紹介します。

スズメバチネジレバネとは

ネジレバネとはネジレバネ目に所属する昆虫の仲間であり、色々な昆虫に寄生するカテゴリーの総称です。

お腹の段々状になっている隙間に寄生している。半円状の黒い模様がそれ。

大概○○ネジレバネという名があり、寄生先の名前がつく場合が多いです。特にハチ類につく傾向があります。

♀が非常にユニークな姿をしており、イモムシのような見た目でハチ類などのお腹の節の隙間に寄生します。

スズメバチネジレバネの例ではハチ1匹に対して約1~最大5匹まで寄生する事例が知られています。

スズメバチネジレバネはいわゆる寄生者であり、寄生者の多くは幼虫に寄生するヤドリバエのように寄生主を殺してしまう生態を持つ者が多いのですが、このネジレバネは寄生主を活かします。

姿を見せてから何もしていない

しかし寿命が延びることの代償に働きバチとしての機能を失わせてしまうことが知られており、いわゆる働かないものになってしまいます。

奇妙な生態から時折SNSを始めとする各種メディアで取り上げられることがあり、存在を知っている人も多い生き物かと思います。

ネジレバネ寄生個体の確認と観察方法

これは簡単です。スズメバチネジレバネはハチ類の腹節に寄生するのでそれを確認します。

ネジレバネの存在を事前に知っていれば見る余裕があるが、通常は気がつけない場合がほとんどだと思われる。

ハチ類のお腹は段々状態になっているのですが、この節の間にはモンスズメバチを除いて模様が見られません。

節の間に不自然な丸い模様が見られるならば、それはネジレバネによる寄生を示すサインです。

また、タイトルにある通りネジレバネに寄生されたスズメバチはネジレバネの生態の都合上(後述)冬を越して翌年以降の樹液にたどり着く必要があります。

スズメバチネジレバネの幼虫は樹液に住み着くという

そのため、冬場に本来全滅した巣の中で生存した個体が見つかる今回の事例のパターンでも、寄生された個体である可能性が高いです。

後は翌春以降の樹液で女王と異なるサイズの働きバチを見つける場合ですね。

基本的にこの時期は女王しかいないはずなので、女王よりも一回り小さい個体がいればネジレバネ寄生の個体である可能性が高いです。

ネジレバネの寄生戦術

奇妙な生き物であるスズメバチネジレバネ。そのライフサイクルはどのようなものなのでしょうか?

冬場に寄生個体を生存させるメリットが彼らにはあるということ

情報の少ないこの虫の生態が述べられた論文である「スズメバチネジレバネの生態」(牧野2001)の中ではこの生き物が樹液を基にそのライフサイクルを持つことが推測されています。

スズメバチネジレバネの幼虫はなんとスズメバチの餌資源となる樹液酒場から、スズメバチに乗り移って巣へと運ばれるとのことです。

寄生を行う生き物には時折このようなにわかに信じがたい行動を取るものがいます。

ヒメツチハンミョウ。幼虫が花の上でハナバチが来てくれるのを待ち、運で巣まで運ばれる。

例として挙げられるのがツチハンミョウの仲間です。

この生き物は花粉を食べに来るハナバチ類の巣に寄生し、ハナバチの花粉団子を食べて成虫になるという生き物です。しかし、肝心のハナバチの巣へ移動する術が完全に運なのです。

それはハナバチが来そうなお花の上で待機し、ハチが来るのを待つというものです。そして運よくハチが来たらそれにしがみついて巣へと運ばれます。

どうでしょうか?スズメバチネジレバネの話にそっくりですよね。

ネジレバネは樹液で待機し、偶然スズメバチが来るのを待つ

この研究では、スズメバチネジレバネは樹液でスズメバチにしがみつき、巣へと移動し、その個体ではなく巣にいる幼虫に寄生することが記されています。

ネジレバネに寄生された個体はいわゆる働きバチとしての機能を持たなくなり、巣作りに貢献しない他、餌づくりや次世代を育てる行動もとらなくなるようです。

生きているが心ここにあらずというような感じで、無関心。

そしてハリガネムシに寄生されたカマキリが水辺に反射した光に誘引されるように、樹液の発酵臭におびき寄せられるようになるのです。

これにより巣内外で次世代のネジレバネを樹液にどのように運ぶか?という問題も解決されます。

つまりネジレバネによる働きバチの越冬というのは、翌年の巣内の幼虫を狙い、樹液にたどり着くためのネジレバネ側の都合上必要なものということです。

年明けで空っぽとなった巣。中には通常ハチはおらず、写真の白いものも羽化不全で死んでいる。

通常の働きバチはおよそ11月頃の低温により死滅してしまいます。

これは勝手な考察ですが、働きバチとしての機能を失わせることにより無駄な労力を使わなくなることで寿命が延びているのかもしれません。

クワガタを始めとする昆虫が越冬する際に、ほとんど動かないことでエネルギーを消費しないのと似ているものだと考えられますね。

本来死ぬ個体が長生きする様になるという不思議な現象

一方でネジレバネが寄生することで延命に関わる何かが起こっている可能性も考えられます。ちょっと夢がありますね。

ちなみに交尾が巣内、巣外で行われるのかは不明だそうです。

ネジレバネによる寄生の影響がいつぐらいから出るのかもよく分かりませんが、♀が成熟してからもある程度寄生主が自由に動けるならば屋外で交尾できる可能性はありそうですね。

ちなみに♂はトコジラミのように♀に交尾器を刺すとのことです。

ネジレバネによる影響、巣がなくなる?

このネジレバネですが、寄生主として働きバチだけでなく女王バチや♂バチにも寄生することがあります。

キイロスズメバチの初期巣。初期巣に寄生個体が出ると被害は甚大となる。

そして寄生した個体の生殖能力を雌雄問わず奪うことが認められており、スズメバチの巣に大きな影響を与えます。

例えば研究内(牧野2001)では越冬女王が寄生された場合には卵巣の発達が起きていないことを確認しています。

オオスズメバチの女王。ハチの女王は春に一匹で巣を作る。つまり女王に異常があると巣は作られない。

これは翌年以降の新たな巣が作られないことを意味し、スズメバチに大きな影響を与えます。寄生されると昆虫界の最強格であるスズメバチですら、寄生主を育てるための傀儡となるのです。

このネジレバネのライフサイクルを邪魔するのがと寄生主(スズメバチ)が屋外で死ぬことです。それを避けるためになるべく巣内で大人しくさせているのでしょうね。

まさに今回私が見つけた事例という訳です。

越冬するスズメバチ

冬を越すスズメバチは女王であるというのはよく知られています。

5月くらいまでは女王蜂が活動している。チャイロのおそらく女王。

研究(牧野2021)のなかでは5~7月の女王がいる時期にスズメバチを発酵臭のあるトラップで捕殺すると、ネジレバネに寄生された働きバチが捕殺されることを報告しています。

これは女王以外が越冬することを示しています。

私が観察した今回の事例ではまだ冬を越しているわけではないのですが、働きバチが冬を越すというのは実際ありそうです。

本来は古巣や何処か越冬場所を見つけて春を待つのかも

ということはネジレバネが多い地域などでは、知られていないだけでこうした古巣の中に寄生されたスズメバチが潜んでいる可能性は十分にありそうですね。

多くの場合秋以降に見つかった巣は空であるということがハチの生態的にはよく知られているので、巣は放置されがちです。

ですが、砕いてみたりすれば今回のようにハチが出てくるかもしれませんね。女王バチは朽木の中などで越冬することが知られています。

ネジレバネ寄生の個体の詳細な越冬場所は不明ですが、ここが明らかとなれば見分けも簡単になりそうです。


ネジレバネの延命は何か役に立つかも?

ネジレバネに寄生された個体は原理は不明ですが、本来寿命を迎える時期を乗り越え、翌年の夏頃まで生きる可能性があります。

ネジレバネに寄生されるとなぜ寿命が伸びるのかは不明。

寿命が延びるというのは非常に魅力的な話ですよね。

生き物の中には細胞が若返ることで知られるベニクラゲの仲間がいます。

若返りを行うことから不老不死で知られる生き物と言われていますよね。

ネジレバネのこの生態は不老不死とはいきませんが、何かに役立てられたりするのではないかと秘かに期待しています。

まあ、死んだような状態で長生きするのはごめんですけれども!

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参考文献 牧野俊一 ミツバチ科学(Honey bee Science)スズメバチネジレバネの生態(2001)