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小さいクワガタはゼリーを上げたら大きくなるの? ペットとしてのクワガタ

捕まえたクワガタにゼリーを上げて大きくしたい

小さめのヒラタクワガタ。ここから大型の姿に餌をあげれば育つ?

クワガタを捕まえられると嬉しいですよね。

昨今の自然下ではあまり大きくない個体が多いため、これからじっくり餌をあげて大きくしてあげるぞ~と意気込んでいる方もいるかもしれません。

彼らはご飯を食べて成長しているわけですが、大人がたくさん食べてもそれ以上背が伸びていかないように、クワガタも成虫になるとそれ以上は大きくならないんです。

今回は成虫では成長しないクワガタと、じゃあいつ成長するの?何を食べているの等を初心者に向けて紹介します。

クワガタとは?

クワガタはコガネムシ科クワガタムシ族に所属する昆虫の総称を指します。

みんな大好きで関東南部ではやや珍しいミヤマクワガタ。

頭部に1対からなる大あごを持つのが最大の特徴であり、樹液におけるライバルとの競争や樹皮を削り餌となる樹液を出すなどの行為に使われています。

出現期は大半の種の成虫で5~10月程度に収まっており、クヌギやコナラを始めとする広葉樹の樹液を訪れるものが多いです。

ミヤマはおよそ6~8月、ヒラタはおよそ5~9月の出現。

種数は日本のもので亜種を含めて50種類近くおり、東京神奈川だけでもそれなりの種数に遭遇することができます。

しかし、生息環境には種毎の傾向が見られるため、捕まえるためには捕まえたい種類ごとにしっかりと対策を立てることが不可欠です。

高地のアカアシクワガタなど分布を把握しないと出会えないものもいる

基本的には夜行性のものが多いですが、夜しか見つけられないということは無く、樹液の基本的な探し方などを押さえておけば昼間でも十分遭遇することは可能です。

捕まえ方は樹液周りやライトトラップ、外灯巡回などがメジャーとされていますね。

昆虫ゼリーで簡単に育てられ、外国産も簡単に購入できるようになったため近年ペットとして人気が高まっています。

ゼリーで大きくなることは無い

結論を述べてしまうとゼリーを上げたからと言って捕まえたクワガタや飼育している個体が大きくなることはありません。

コクワガタの小と大。2倍くらい違うので育つと勘違いする気持ちもわかる。

クワガタの成虫は我々でいうと大人であり、身長が伸びないのと同じようなものです。

大きいクワガタに育つためには幼虫時代に栄養が豊富な環境にいることや、低温下で蛹になる時間が遅れるなどの要素が必要です。

写真よりも大きな枯れ木を利用していることが多い

しかしゼリーを見ていると高たんぱくなどの文言があり、まるで成虫のクワガタが大きくなるように錯覚してしまいますよね。

これはゼリーに含まれるたんぱく質などがブリードなど次世代の卵に影響を与える可能性があるためです。

ゼリーで大きくならないことの影響を裏付けると、クワガタのサイズに関わるのは幼虫期の餌環境(たんぱく源となる窒素)であることがとある研究から分かります。

発生源の可能性がある太い枯れ木。

クワガタではなくカブトムシでの事例なのですが、クヌギマット(窒素が少ない)と腐葉土(窒素が高い)ものを使用してカブトムシ幼虫のサイズを比較したところ、窒素分が高い土の個体の方が10%ほど大きくなったというものです。

つまり程度は不明ですが、幼虫はタンパク質と炭水化物が十分にあるとタンパク質量が多ければサイズが大きくなりやすい可能性があるわけです。

ということはゼリーは幼虫を高たんぱく状態で産ませるため?と思いきやそういうことでもありません。

クワガタのメスが死骸や他昆虫を食べるのは有名

実は本来クワガタは産卵の時に動物性たんぱく質を必要とします。

動画などでヘビなどの生き物や他の昆虫を食べているクワガタの♀を見たことがある方もいるかと思います。あれは産卵に必要な動物性たんぱく質をとる行動です。

夏にうっとおしいアブ。産卵のために栄養豊富な動物の血を求める。

仮説ですがアブの仲間が産卵時に哺乳動物の血液を必要とするのに近いのではないかと思います。

高たんぱくゼリーはそれを代用するものであり、産卵を助ける栄養が含まれたゼリーであるということですね。

ややこしいですが個体の成長を助けるものではないのです。

でも赤ちゃんクワガタもいるよ?

親子向けにイベントをしていたり、偶然遭遇した親子と話すとクワガタの赤ちゃんという言葉を聞きます。

ネブトクワガタの大歯と小歯。1.5倍位サイズが違う。

コクワガタやクワガタの♀、小さいノコギリクワガタなどを目にするといかんせん大型の姿は図鑑などで目にしますから、これから大きくなっていくものだと勘違いしてしまっているんですね。

1cmあるかないかのサイズでも大人。大人の男性の身長が160~180くらいの幅に収まりやすいのと似ている。

クワガタの赤ちゃんと呼ばれる小さなクワガタもそれはもう立派な大人なのです。つまりこれ以上大きくなることはありません。

しかし大型個体と小型個体、同じ種なのになぜこんなにも変わってしまうのか疑問に思いますよね。

このサイズの違いについては考察してみた記事があるので詳細はそちらをご覧いただきたいのですが、
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摘要すると先ほどの幼虫期の栄養説がまず1つ考えられますが、幼虫期間の違いなどが挙げられます。

例えば高尾山の小型ミヤマ割合は体感出現率の6割程度を占めるほど高いものです。

高尾の極小ミヤマ。本当にこのサイズはよく見つかる。

ミヤマクワガタは性質として幼虫から成虫までに1年でなる年1化、2年でなる2年一化、3年でなる3年一化がおり、幼虫の生息環境と温度でそれが変わると言われています。

ミヤマ色々。サイズの差が激しいほどロマンを追い求める楽しみがある。

当然幼虫期が長ければ長いほど大型になる可能性はあります。

しかし温度が高くなると成長が早くなって年一化になりやすくなってしまうのです。

なので仮説として高尾山では低山ゆえに温暖化で気温が高くなり小型個体が生まれやすくなっていると推測しています。

このように赤ちゃんサイズの小さなクワガタは赤ちゃんで生まれてきているのではなく、周囲の環境によって小型化して出てきている可能性が考えられるわけです。

ペットとしてのクワガタ

クワガタは哺乳動物の様にお世話が大変ということもなく飼育環境が整えやすいことから近年ペットとして人気が高まっています。

数ヶ月の短命なものから写真のスジクワのように数年生きるものもいる。

外国産含めれば種数も非常に多く、哺乳動物にはない動きで飽きの来ないのが魅力です。

何より自身で捕まえて飼育することができる点で愛着がわきやすく、死後も標本にできるので管理さえしっかりしていればずっとその姿をとどめておくことができます。

捕まえる楽しみ、飼う楽しみ、それを記録にして残す楽しみ。素晴らしい。

維持費も初期投資も安いのが魅力的で、虫かごとマット、転倒防止の木と昆虫ゼリーで飼育できます。

長期間だと飽きちゃうかも。という人も種を選べば寿命は2~3か月程度と生き物を飼育してみる経験をしてみたい人にうってつけと言えます。

ゼリーとケースで初期費用も維持費用も安いので、興味がある方は当ブログのコンテンツを活かして採集に挑んでみてください。
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(ブログ内カブクワ関連の殆どがこの記事より読めるようまとめました。情報収集にぜひどうぞ。)

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参考文献
カブトムシ幼虫の腸内環境と微生物の相互作用(和田典子 2021)